新聞に喝!

半島有事、日米韓の「指揮権」議論を 日本大教授・小谷賢

カンボジアで開かれた日韓首脳会談で握手する岸田首相(右)と韓国の尹大統領=13日(聯合=共同)
カンボジアで開かれた日韓首脳会談で握手する岸田首相(右)と韓国の尹大統領=13日(聯合=共同)

外遊中の岸田文雄総理が、米国のジョー・バイデン大統領、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、中国の習近平国家主席と立て続けに会談を行った。特に中韓とは久々の会談となり、先方はともに日本に期待を寄せている印象だ。個人的には、連日ミサイル実験を繰り返す北朝鮮を念頭に置くと、まずは日韓関係を改善する必要があるように思うが、両国は徴用工問題でつまずいたままだ。

ただしこの問題で日本が韓国に妥協する必要はなく、韓国側が国内問題として粛々と解決すればよい。そもそも日本側の外交スタンスは、徴用工問題が解決しない限り首脳会談も開催しない、というものであったため、今回、日本側はそれなりに妥協した形となる。ただ今後、日韓関係が改善されないままの状況で、朝鮮半島情勢が有事となる状況も想定される。その際、果たして日韓、そして米国はうまく連携できるのだろうか。

今回の日韓首脳会談を受け、各紙は日韓関係を改善することで、日米韓による北朝鮮への抑止力強化を目指すべきだ、と主張した。朝日は抑止力強化のみに固執すべきではない、との見解を打ち出しているが、大枠の日米韓の連携強化には前向きだ。ただどのように抑止力や連携を強化するのかについては、紙幅の関係もあり、各紙で具体的に論じられているわけではない。ここではあえて、有事の軍事指揮権を明確にしておく必要性を指摘しておきたい。

指揮権は命令や責任の所在を明確に定めておくことで、軍事作戦を円滑に進めるためのものである。例えば北大西洋条約機構(NATO)であれば、単一の司令部指揮権の下で、欧州各国軍が作戦を実施することになっている。これに対して東アジアにはそのような単一の司令部は存在しない。戦後の一時期には、有事に自衛隊を米軍の指揮下に置くという密約があったとされるが、現在はうやむやになっている。千々和泰明氏によると、朝鮮半島有事が勃発すれば、在韓米軍司令官が国連軍司令官を兼ねて、在韓米軍と韓国軍、国連軍を指揮できるが、在日米軍と自衛隊はその枠外にある(『戦後日本の安全保障』)。そうなると現状では有事に自衛隊と米軍、韓国軍の連携が取れない可能性も想定されるので、北朝鮮への抑止としては弱いと指摘せざるを得ない。そのため有事に備えて、各組織の指揮権を明確にしておく必要性があろう。ただ単純に自衛隊を米軍指揮下に置くのは、文民統制や集団的自衛権の問題にも関わってくるので実現は困難だ。この点については今後、各紙の議論に期待したい。

【プロフィル】小谷賢

こたに・けん 昭和48年、京都市生まれ。京都大大学院博士課程修了(学術博士)。専門は英国政治外交史、インテリジェンス研究。著書に『日本軍のインテリジェンス』など。

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