サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で、日本代表が大逆転劇を演じた23日のドイツ戦のピッチに、同じ少年サッカークラブにルーツを持つ4人が立った。途中出場した変幻自在のドリブラーが同点弾の口火を切り、不動の守護神は怒濤(どとう)の猛攻を最少失点に抑え、歴史に名を刻んだ。27日のコスタリカ戦でも4人が原動力となり、勝利をつかめば、1次リーグ突破が大きく近づく。
ドイツ戦最後の数分間、相手の全員攻撃をしのぎきったGK、権田修一(33)は試合終了の笛が鳴ると、駆け寄ってきた控えのGK2人と抱き合った。
川崎市内にある「さぎぬまサッカークラブ(SC)」代表の沢田秀治(ひでじ)さん(64)は同市内の飲食店でテレビ観戦し、「多くのシュートを浴びながらよく防いだ。小学生の頃からチームを鼓舞してきた姿を思い出した」と感慨に浸った。
サムライブルーの初戦、さぎぬまSCのOBとして権田とDFの板倉滉(25)、MFの田中碧(24)が先発出場。後半12分にはMFの三笘薫(25)が投入され、田中が交代するまでの14分間、4人同時に夢舞台に立った。
さぎぬまSCは同市宮前区の市立鷺沼小を拠点に活動し、Jリーグ傘下のチームのような入団テストはない。沢田さんは「地域のクラブから出た4人が日本の勝利に貢献するなんて、本当に信じられない」と興奮を隠さない。
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小学1年から6年間在籍した権田は、恵まれた体格からGKに抜擢(ばってき)。1学年下だった沢田さんの長男も「ごんちゃん」と慕ったが、「人一倍どころか人〝十倍〟ぐらいの負けず嫌い」(沢田さん)でもあった。練習でゴールを決められただけで悔しがり、ボールを止めるまで立ち上がった。
ドイツ戦は前半に自らが与えたPKで失点。後半24~25分にも立て続けに4本のシュートを浴びたが、追加点を許さなかった。「ごんちゃんの負けず嫌いな性格が出ていた」。沢田さんは画面越しに感じ取った。
同点ゴールの起点となったのは三笘。敵陣左サイドでパスを受け、得意のドリブルで果敢に仕掛けた。
小学1~2年時に在籍したさぎぬまSCでも、スマートなプレーが光った。身体は小さく、線は細かったが、足のさばき方は別格。代表での役割である攻守の切り替えがすでに身に付いており、「将来性を強く感じた」(沢田さん)。
逆転ゴールをアシストした板倉は、小学2年の1年間在籍。上級生相手の試合で2ゴールを奪う非凡な才能を見せていた。
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小学1~2年時に在籍した田中には、沢田さんが「後にも先にも、そんな子は田中しかいない」と語るエピソードがある。
幼稚園時代に参加したクラブの体験会。基礎練習を終えると、田中がグラウンドの隅で泣いていた。声をかけた沢田さんに、田中は「こんな練習つまらない。もっと難しい練習をしたい」と訴えた。その後、シュート練習をさせると、すぐに泣きやんだという。
当時のチームメートで、小学校の同級生だった清田麟太郎さん(24)も「根っからのサッカー少年。自陣でボールを奪って、一人で攻めていき、ゴールを決めてしまうような突出した選手だった」と証言する。
地域に根付いた街のクラブから世界へと羽ばたいた4人。「歴史的な勝利を勝ち取り、これ以上の喜びはない。コスタリカ戦でもきっと活躍してくれるだろう」。さぎぬまSC副代表の高木元也さん(61)はさらに先を見据えた。(外崎晃彦、塔野岡剛)