学び直す大人の性教育

「考えたこともなかった」生理、不妊治療…働く女性への配慮に戸惑う男性と企業の本気度

女性の社会進出が進み、男女が共に働くことが当たり前となった令和の日本社会。企業の新たな課題として生まれたのが、働く女性の健康管理だ。生理(月経)や不妊治療、更年期障害といった特有の症状に職場の理解が得られず、退職したり、昇進をあきらめたりするケースが今も少なくない。日本の成長を妨げる大きな労働損失となっているが、男性たちの中には、そうした困難を抱える女性を「戦力外」とみなしたり、健康に配慮する制度を「特別扱い」のように感じてしまったりする人もいる。性に関する価値観の変化に揺れる男性たちの戸惑いと、女性支援を掲げる企業の本気度に迫った。


女性にばかり「サービス」できない


「子育てをしながら現場仕事なんてできないじゃないか」

ある建設会社に中間管理職として勤務する40代の男性は、現場からの声を代弁する。建設業界は長く男社会が続き、男性が入社した当時は、まだ総合職で女性を採用していない時代だった。ゆえに、女性社員の出産や育児、健康問題などに無理解な男性社員は多い。10年ほど前には、現場に女性トイレが誕生したことが業界紙で報じられたほどだ。

時代は流れ、女性社員も増えた現在。会社側もセクハラ研修などの機会を充実させるが、十分に行き届かないのが現状だ。女性社員側からも「支援策がないと働けない」との声があがるが、長年の風習がすぐに変わるはずもない。あきらめて我慢しながら働く女性社員も数多い。

「そういう(女性)社員ばかりにサービスできない、という会社の雰囲気がある」。男性の言葉は、日本社会が依然として男性中心であることを浮き彫りにする。


本気になった企業


こうした男性中心の社会で生まれた問題の解決に向けて動く企業が出てきた。大手商社の丸紅は昨年、ヘルスケア関連のスタートアップ企業と共同で、法人向けの女性の健康支援サービス「ルナルナ オフィス」の提供を開始した。

サービスでは、月経や妊娠・更年期に関する全社員向けセミナーや、オンライン診療システムを利用した診療や相談を行い、必要に応じて薬剤などの処方も行う。すでに日本航空やコニカミノルタなど大手企業が導入している。

丸紅は自社内でもサービスを導入し、実証実験を実施。「管理職側や男性職員も理解を深めることが重要」との考えから、男性社員も対象となった。

セミナーに参加した管理職の男性(55)は当初、女性の健康課題について「ほとんど考えたことがなかった」と話す。

男性が入社した約30年前、同期入社の総合職の女性は150人中、わずか3人。こうした極端な男社会に身を置いてきた男性は「(女性特有の健康課題について)概念としては知っていたが、表面だけだった」と苦笑する。

ところがセミナーを受講し、考えは大きく変わった。帝王切開による出産や、月経中に子宮内で月経血を押し出すために子宮が収縮している映像などを目の当たりにし、女性の体に起きる現実を突きつけられた。「周りの女性は、体内でこんなことが起きているのに、黙っていたのか」。衝撃が走った。

単なる周知にとどまらず、深刻な現実を伝えてきた会社の本気度を感じ、これまで人ごとのようだった女性の健康課題が急に身近に感じた。同様に感じた社員は多かったのか、以前に比べ社内で、月経や妊娠、更年期などをタブー視せずに話ができる雰囲気が生まれたという。

サービスを運営する部署の女性社員(38)は「課題を男性上司が正しく理解してくれているだけで、職場に安心感が生まれる」と指摘する。「まずは女性の置かれている現実を詳しく知り、企業が『経営課題』として受け止めることが大切だ」。社員らは声をそろえる。

「ルナルナ オフィス」を活用し、産婦人科医によるオンライン診療を受ける女性(丸紅提供)
「ルナルナ オフィス」を活用し、産婦人科医によるオンライン診療を受ける女性(丸紅提供)


対応せねば敬遠される


生命保険大手の住友生命保険も、女性の健康問題の解決へ向け動き出した企業の一つだ。昨年、「プレコンセプションケア」(妊娠前の健康管理)に関する課題解決に向けた実証実験を実施。社員へのアンケートを通じて実態把握を行うとともに、オンラインでの不妊治療相談窓口などを提供した。

同社は女性の営業職員を多く擁しているほか、保険の仕組みを持続的なものにするためにも、契約者の健康づくりに真剣に取り組む必要があることが背景にある。

アンケートでは「会社からこういった機会が提供されるのはいい」といった前向きな意見から「自分には関係ないと思った」などとする指摘まで、幅広く集まった。同社はこうした意見を精査するとともに他企業へもアンケートへの協力を求めるなどして問題解決能力を高め、企業向けのコンサルティングビジネスへ発展させることを目標とする。

同社の担当者は女性の健康問題をめぐる企業の対応について「例えば休みを取りやすくするなどしても、それが成果として分かりやすく現れるわけではない。そのため、企業も参入しづらい」と説明する。

一方、少子高齢化で労働人口が減少していく中、こうした問題を解決しようとしない企業は労働者から敬遠され「採用ができなくなる」と指摘。各企業が自社の状況を把握し、具体的に行動に移すべき段階に来ていると強調する。

とはいえ、長年続いた風習がすぐに変わるとは考えていない。

「ハラスメントも『そもそも考えたことがない』から始まる。行動を変えるには何年もかかる」(担当者)

今後、コンサル対象の企業には5年程度の期間が必要と伝え、長期間寄り添いながら、その企業独自の解決方法を探っていくという。

「まずは状況把握から始めてみることが重要だ」。担当者は語気を強める。


3割「サポートなし」


女性は結婚したら寿退社し、家事や育児に専念する。

昭和の時代に長らく続いた風習は、時代が平成、令和と移り変わる中で変遷してきた。

平成11年の男女共同参画社会基本法、27年の女性活躍推進法など関連法の施行も追い風に、働く女性の数は増加を続けている。内閣府男女共同参画局が作成したデータによると、子育て期にあたる25~44歳の女性の就業率は令和3年に78・6%となり、平成17年の64・0%から約15ポイント上昇した。

一方、働く女性の増加によって顕在化したのが、女性特有の健康課題への無理解だ。出産や育児のほか、生理や不妊治療などによる体調不良のリスクと常に向き合う女性の現状を、企業側が認識できていない状況が続いている。

経済産業省などが平成29年に働く男女約5千人を対象に実施した調査では、勤務先の企業が「キャリア」「健康」「ワークライフバランス(仕事と家庭の両立)」のいずれに対してもサポートや支援を行っていない、と回答した割合が39%を占めた。女性を対象に、職場において女性特有の健康課題が原因で何かを諦めた経験があるかどうかを問う質問に「ある」と回答した割合は全体の42・5%に上り、就労継続や昇進の妨げになっている現状が浮かび上がっている。


企業及び腰の理由は


住友生命の実証実験に協力した、産婦人科医で東京大学大学院の甲賀かをり准教授は、女性の健康課題解決に踏み込まない企業が多い理由について「メンタルヘルスは社員の自殺などにつながる可能性があるのに対し、女性の生理などはそういった問題に直結しづらいため、ないがしろにされてしまう」と指摘する。また、不妊治療の支援を行った場合は女性社員が出産し、育児休暇の取得による長期離脱につながるため、企業が及び腰となるのも理由の一つだという。

業界によって、また個々の企業によって、この課題への対応はまだまだ差が大きい。ただ、女性の健康問題への取り組みは、選ばれる業界・企業になることによって労働損失を防ぐ意味合いもあるが、そうした経済効率以前に、女性が男性と同じように「普通に」働くことへの環境整備でもある。

甲賀氏は「女性特有の健康問題を理由に、女性が仕事を断念することのない社会を目指す必要がある」と話している。

性に関する知識を十分に学ばないまま過ごしてきた中高年世代が、自身の体調の変化だけでなく、職場での同僚や部下に対する健康配慮、家庭における性教育の場面などで、困難に直面している。そんな大人たちの戸惑う声を拾いながら、性教育の学び直しにつながる記事を随時お届けします。

会員限定記事会員サービス詳細