日本サッカーの「父」から引き継がれた「大和魂」 強豪ドイツ戦で体現

デットマール・クラマー氏
デットマール・クラマー氏

サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で日本がドイツを逆転で下した。初めて優勝経験国をW杯で破る歴史的快挙は、23日の1次リーグE組初戦で演じられた。その余韻が残る試合後の公式会見で、日本代表の森保一監督が放った言葉に、過去から現在につながるドイツとの太い絆が表れていた。

「ドイツには日本のサッカー選手を育ててもらい、日本サッカーの発展を助けていただいている。リスペクトして、感謝したい」

W杯優勝4度を誇る強豪国は、日本サッカー界にとって長く手本であり、憧れだった。

1960年、4年後に迫った東京五輪への強化の一環として日本協会が西ドイツ(当時)から招いたのがデットマール・クラマーさんだった。W杯出場など夢のまた夢、リフティングもまともにできない日本の選手たちに、後に「日本サッカーの父」と呼ばれる名伯楽が訴え、徹底的に教え込んだのは基礎技術と、戦う姿勢だった。

選手たちに語り掛けた象徴的な言葉がある。「ドイツにはゲルマン魂がある。私に、君たちの大和魂をみせてくれ」

勤勉で真面目、規律を守る国柄も肌に合ったのだろう。64年東京五輪で8強入りを果たすと、教え子たちが軸となった68年メキシコ五輪は銅メダル。代表強化に加え、指導者養成やユース育成などの礎を築いたクラマーさんは、その後も続くドイツとの交流の源流でもある。

93年5月に開幕したJリーグには、90年イタリア大会を制した西ドイツ代表メンバーのピエール・リトバルスキー氏らがプレー。プロ化したばかりの選手たちが世界基準を肌で知ったことが、98年フランス大会の初出場にもつながった。

いまでは仰ぎ見るだけの対象ではなくなっている。日本代表の多くが本場欧州でプレーし、今回のW杯代表26人の中でも、Jリーグ組をしのぐ最大8人がドイツで日々技を磨く。

遠藤航(シュツットガルト)は2季連続でドイツ1部リーグのデュエル(1対1の競り合い)王に輝き、鎌田大地(アイントラハト・フランクフルト)は今季リーグ13試合で7得点を挙げている。「(ドイツで)結果を残し、コンスタントに試合に出ている。ある程度自信をもっている」と遠藤。大一番を前に、誰一人ひるんではいなかった。それどころか「ふざけるな、見返してやろうと思っていた」とは堂安律(フライブルク)だ。

その思いには理由がある。「(早期敗退で残りのW杯期間は)バカンスだな」「(相手に走らされるからスパイクより)ランニングシューズ持って行けよ」。4月の組み合わせ抽選会でドイツとの対戦が決まった後、ドイツでプレーする選手たちはチームメートに揶揄(やゆ)されたことがあったからだ。

クラマーさんが種をまいてから62年。日本のサムライたちは先制されても、押し込まれても、最後まで諦めなかった。奇跡を呼んだ2得点はドイツでプレーする堂安と浅野拓磨(ボーフム)が決めた。世界最高峰のイングランド・プレミアリーグでプレーする冨安健洋(たけひろ)=アーセナル=は「(ドイツを)倒せるだけのクオリティーを持っているとは思っていた。それを証明することができた」。世界最高峰の舞台で、〝父〟から受け継がれてきた「魂」を見事に体現してみせた。(川峯千尋)

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