主張

97歳の死亡事故 高齢運転者対策は万全か

軽乗用車が歩行者をはねる事故があった現場付近=19日午後8時27分、福島市
軽乗用車が歩行者をはねる事故があった現場付近=19日午後8時27分、福島市

福島市の市道で、97歳の男が運転する軽乗用車が歩道を歩いていた42歳の調理員の女性をはねて死亡させた。

男は、運転免許証更新時の認知機能検査で問題は見られなかったという。悲惨な事故を防ぐことはできなかったか。

福島北署に自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで逮捕された波汐国芳容疑者は歌人として知られ、東日本大震災や東京電力福島第1原発事故をテーマにした歌集など、著作も多数あった。運転事故は被害者を死に至らしめ、自らの晩節も汚す最悪の結果を招いた。

事故現場は片側1車線の見通しのいい直線道路で、軽乗用車は街路樹2本をなぎ倒して歩道を数十メートルにわたって走行し、女性をはねた後、車3台にも衝突した。ブレーキ痕はなかった。

近所の人らによれば、容疑者が数カ月前に買い替えた軽乗用車は傷やへこみが増え続け、駐車にも苦戦していたとされる。免許の自主返納を求めたいケースだが、容疑者は数年前に妻を亡くし、1人暮らしだったとみられる。親族の強い説得がなければ、自主返納の決断は難しい。

高齢運転者の事故対策では今年5月、改正道路交通法が施行された。70歳以上は運転免許証更新時に高齢者講習が、更新時に75歳以上の人は認知機能検査が義務付けられた。一定の違反歴がある人は運転技能検査に合格しなければ免許証は原則更新されない。

それでも、悲しい事故は後を絶たない。認知機能検査や運転技能検査は効果を発揮しているのか、検証が必要である。自動ブレーキなど先進安全機能を備えた「安全運転サポート車」を条件とする限定免許の運用も始まったが、普及が十分とはいえない。

人は加齢とともに、認知機能だけでなく、判断や動作のスピードが落ちる。悲しいかな、それが現実である。運転免許証取得年齢に「18歳以上」と下限が設けられている以上、上限を設定することも検討すべきではないか。

現実に97歳の死亡事故を目の当たりにすれば、そう提言せざるを得ない。生活の足として根強い反対はあるだろう。では100歳でも、110歳でも免許の更新は可能でいいのか。高齢運転者対策は歩行者らの安全だけではなく、運転者自身を守るためでもあることを忘れてはならない。

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