<特報>抗原検査「ほぼ陰性」粗悪品も流通 未承認キットの落とし穴

押収された新型コロナウイルス抗原検査キット。「研究用」と書かれている=令和3年9月28日、京都府警福知山署
押収された新型コロナウイルス抗原検査キット。「研究用」と書かれている=令和3年9月28日、京都府警福知山署

新型コロナウイルスの感染拡大「第8波」到来や季節性インフルエンザとの同時流行が懸念される中、医療逼迫(ひっぱく)回避のため、政府は抗原検査キットの事前購入を呼びかけている。薬局などで入手できる国承認のキットであれば、コロナウイルスの構成成分を簡易に検出でき、15分ほどで結果が分かる。一方、性能が不確かな未承認キットが主にインターネット通販で出回っていることはあまり知られていない。粗悪品の使用が感染拡大につながる恐れもあり、政府は正しいキットを使うよう周知している。

精度は264分の1

《感染の有無を調べるために使用するものではありません》《世界各国で販売されています》

通販サイトには現在、こうした説明とともに多数の抗原検査キットが並んでいる。違いは分かりにくいが、パッケージを拡大するとその多くに「研究用」との表示があった。

検査キットには、大きく分けて国の承認を受けた「医療用」「一般用(OTC)」と、未承認の「研究用」の2種類がある。消費者庁によると、ネットで流通する研究用は主に中国製で「雑貨」として輸入されたものが多い。キットの需要に供給が追い付いていなかった時期に急速に広まったとみられる。

研究用のキットを販売しているだけでは取り締まることはできない。しかし厚生労働省の承認を受けているかのような表示をするなどした業者に対し、消費者庁が行政指導した例はある。

粗悪品を巡る事件も起きている。未承認の検査キットを感染の判定用と広告して販売したとして、京都府警は昨年9月、医薬品医療機器法違反の疑いで通信販売会社の役員ら2人を逮捕。府警によると、その精度は承認品に比べて264分の1しかなく、結果もほぼ陰性しか出なかったという。キットは中国企業が製造したものだった。

同時流行時の切り札

こうした経緯から、政府は研究用は検査に使うべきではないとの立場だ。消費者庁の担当者は「実際は陽性なのに研究用キットで陰性だからと安心してしまい、感染を広げたり治療をせず重症化してしまったりする恐れがある」と危惧する。

今冬にコロナとインフルエンザの大規模な同時流行が起きた場合、1日に最大で75万人の患者の発生が想定されている。医療逼迫を避けるため、政府が切り札の一つとして位置付けるのが検査キットだ。

厚労省が示した外来受診の流れによると、重症化リスクが低い人はキットで自己検査を行い、陰性の場合は電話やオンライン診療の活用を促している。これにより高齢者らに確実に医療を提供できるようにする。

誤って購入の恐れ

ただ検査キットに関する正しい知識を持っている人は少ない。厚労省が今年6~7月に実施した調査によると、検査キットに承認と未承認の2種類が混在することを知っていたのは313人のうち約4割(126人)。さらに混在を知っていた人の中でも、約3割が「研究用キットは使用すべきではない」とされていることを知らなかった。

検査キットの確保が呼びかけられる中、消費者が誤って未承認のキットを購入してしまう恐れもある。厚労省によると、承認されたキットには「体外診断用医薬品」や「第1類医薬品」の表記がある。また承認キットはホームページで一覧が公開されており、こうした情報を確認しながら購入することも手だ。

厚労省の担当者は「医療機関や社会、家族を守るためにも、キットは承認を受けたものを使ってほしい」と話している。

厚労省、2・2億回分のキット確保

厚労省はコロナ流行「第8波」に備え、11月初旬時点で約2億2千万回分の抗原検査キットを確保している。卸売業者にも流通が滞らないよう協力を依頼し、「十分な量を確保した」と強調する。

検査キットは、鼻の奥の粘液を綿棒で取ってウイルスのタンパク質を検出するのが一般的な手法だ。数時間以上かかるPCR検査よりも手軽に調べることができ、高齢者施設や医療機関などでの感染拡大防止に有効な手段とされる。厚労省は確保したキットについて、こうした施設で集中検査を行う自治体などに向け無償で配布。これとは別に自治体が独自でキットを購入し、住民に配布して第8波に備える動きもある。

厚労省が承認する医療用のキットは従来、医療機関でしか使用できなかった。ただ感染拡大に伴い、検査希望者が発熱外来に殺到するなど、医療機関の負荷軽減が課題に。キットを入手しやすくするため、昨年9月には特例的に医療用キットが薬局で販売可能となった。さらに今夏から、承認された一部キットのインターネット販売も解禁された。(前原彩希)

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