学び直す大人の性教育

「男性として自信失う」打ち明けられない性の悩み 


11月19日は男性の健康に目を向けジェンダー平等を促す国際男性デー。近年、生理など女性特有の体の仕組みや症状について社会的理解が進みつつある一方、男性特有の心身の不調や悩みに対する意識の変革は極めてスローだ。特に男性器まわりのことは生理以上にタブー視され、当事者の悩みが表に出にくい。そんな中、自身の性機能について深い悩みや困りごとを抱えていながら、専門医にたどり着いていない中高年男性が少なくない実態も分かってきた。男性が健やかに人生を過ごすためのヒントを探った。


性生活に違和感


埼玉県に住む教職員の男性(41)。身体の異変に気づいたのは今年夏、新しいパートナーとの交際がきっかけだった。

「性生活における男性機能の面で自信を失うような出来事がありました。パートナーは気づいていないようでしたが、若いころと比べて明らかな違いを感じ、ショックだった」

不調は日常生活にも。夜、尿意を感じて目覚める回数が異常に増えた。「多いときには1時間半に1回ほどトイレのために起きる。睡眠の質が落ちて疲れがとれない。精神面でも不安感が増していきました」

症状をもとにインターネットで調べて、たどり着いたのは「男性更年期障害」という病名だ。

男性ホルモンである「テストステロン」が急激に低下することで引き起こされる「男性更年期障害」は、近年、男性特有の健康課題として注目されている病気だ。加齢だけでなく、ストレスも原因となり、若い世代から高齢者まで誰にでも起こるといわれる。男性機能の低下は、発見の目安にもなっている。

男性更年期障害の症状は多岐にわたる
男性更年期障害の症状は多岐にわたる

「一番治したかったのは、男性機能の低下でしたが、もちろんパートナーには打ち明けられないし、医師でさえ話すのは恥ずかしいという葛藤がありました」と振り返る男性。

パートナーとの将来を大切にしたいという思いから、男性は大学病院の泌尿器科を受診したが、この男性のように勇気を出して専門医につながるケースは、まれなのかもしれない。


コメント欄に殺到する不安や本音


「こんにちは。看護師マッキーです」

えんじ色のナース服姿の女性が、朗らかな声で視聴者に呼びかける。

午後10時。動画投稿サイト「ユーチューブ」に連日、新たなコンテンツを配信しているのが「メンズヘルス専門チャンネル・看護師マッキー」だ。

登録者数9万人超。その9割以上を40歳以上の中高年男性が占めている。

運営するのはフリーランスの看護師マッキーさん。今年9月、日本メンズヘルス医学会のセミナーで、男性更年期障害の認知を広げる必要性を訴えるなど、男性特有の健康課題の解決に向けた活動に力を入れている。

メンズヘルスの情報を発信している看護師マッキーさん
メンズヘルスの情報を発信している看護師マッキーさん

小児科や泌尿器科などで10年以上勤務し、2年前からユーチューブで男性特有の悩みをテーマに動画投稿を始めた。

当初はアダルトコンテンツだと勘違いしている人も散見される状況に、戸惑ったというマッキーさんだが、コメント欄の書き込みを見ると、ほかでは相談できない悩みを打ち明けてくれる男性も少なからずいたという。

「妊活中の男性から、勃起はするが射精に至らないという悩みが寄せられました。精神的なプレッシャーから副交感神経と交感神経のバランスが崩れていると考えました。勃起は副交感神経が優位のとき、射精は交感神経が優位のときに起こります。なぜ射精に至らないのかという医学的な知識に加え、『男性は視覚的な刺激に反応するので、パートナーの女性にコスプレしてもらうなど遊び心も取り入れて、義務感を忘れることが大切ですよ』とアドバイスしたところ、男性から『ストレスフリーの状態で性行為でき、数カ月ぶりに射精ができた。妻も泣いて喜んでくれた』という感想をもらい、2カ月後に妊娠したという報告を受けました。誰かの役に立てたという実感が、動画を配信する動機につながっています」

夜も朝も自慰行為をしているが依存症なのか、包茎のままで大丈夫か、射精の勢いがなくなってきたのはなぜか。大人の男性たちから寄せられる質問も多くは、下着の中の悩みだという。

「男性機能についての医学的な知識をちゃんと学んでいないことが不安を招いている原因ではないか」とマッキーさんは受け止めている。


男性機能低下は重大疾患に気がつくバロメーター


マッキーさんの動画では、男性機能について取り上げることが多い。それは、男性器の働きが重大な疾患に気がつくきっかけにもなるからだ。

「例えば、陰茎動脈は心臓や脳の動脈よりも直径が細く、動脈硬化の初期症状が現れやすいといわれています。勃起障害は狭心症や脳梗塞の前触れの可能性があるのです」

「勃起する」という現象を〝色眼鏡〟で見れば卑猥(ひわい)なイメージで受け止められがちだが、医学的にとらえれば、自律神経が正常に機能している、動脈硬化が進んでいない、つまりは健康だと、マッキーさんは説明する。

ユーチューブ番組で「男性更年期障害」についても積極的に配信している
ユーチューブ番組で「男性更年期障害」についても積極的に配信している

男性更年期障害についても、症状やチェック項目などを繰り返し伝えている。下着の中のことで不安があれば、専門医である泌尿器科にかかることの大切さを動画で訴えているが、中高年男性にとって、泌尿器科が縁遠い存在であることも分かってきた。


泌尿器科のイメージは…受診率が低い実態


マッキーさんが視聴者558人から回答を得たアンケートで「泌尿器科に対して伝えたいことは何か」を尋ねたところ、304人が自由回答に意見を寄せ、そのうち56人が「もっと男性が受診しやすい場所にしてほしい」と答えた。

泌尿器科のイメージは「性病にかかった人がいくところ」「自分が受診するところを人には見られたくない」「怖い」といったものだったという。

国の調査でも同じような傾向が明らかになっている。厚生労働省が今年実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」で、更年期症状を自覚しているのに、医療機関を受診していない男性の割合は、40代で86・6%、50代も86・5%にのぼっている。


「男性更年期じゃない?」妻の一言に救われた


では、泌尿器科に実際にかかった人は、どんな経緯で受診を決意したのだろう。

今年1月から受診を始めたという茨城県の会社員男性(47)。きっかけは、脳の手術を受けた同僚男性が、治療で男性ホルモン補充療法を受けていると聞いたことだった。

「男性ホルモンを注射している同僚は、階段の上り下りを軽々とこなすようになっていた。片や自分は休日に寝て過ごしても疲れがとれず、やる気も出ない。泌尿器科というと、性的な病気を治す場所という印象しかなかったが、男性ホルモンを補充すると元気になることに興味をもち、検査だけでもと思って受診しました」

男性更年期障害の診察を行っている病院でホルモン値を調べたところ、一般男性の3分の1程度しか、男性ホルモンが分泌していないことが分かった。男性更年期障害との診断を受け、治療を続けている。「いまでは運動する意欲も出てきた。ホルモン値も回復傾向にあります」と語る。

埼玉県に住む公務員男性(58)は昨年春から気分が落ち込み、精神科にもかかったが、鬱病の診断は下されず、1年以上、症状に悩んでいた。

「集中力が続かず、スケジュール管理もおろそかになり、仕事に支障が出るように。倦怠(けんたい)感が強く、帰宅して夕食を取った後、すぐに寝てしまう状況でしたが、異変を気遣ってくれた妻が『男性更年期障害じゃないか』と助言をくれ、インターネットで調べたところ、チェック項目の多くに自分の症状が当てはまっていました」

雑誌やテレビで男性更年期障害について見聞きしていたという妻(58)は「気がつくきっかけは、夫の頻尿でした。夜、トイレのために2、3回起きるようになったと話していたので、聞きかじっていた知識と夫の症状が重なりました」と振り返る。

男性は10月末に、男性更年期障害を専門に診てくれる泌尿器科を受診。男性ホルモン値などを調べる血液検査や尿検査の結果を待っている現在の心境を語ってくれた。

「最初の症状は精神的なものだったので、泌尿器科はピンときませんでしたが、妻の一言で専門医につながることができました。受診して今感じているのは安心感。ホルモン値が明らかになったら、自分に必要な治療を前向きに受けようと思います」

性に関する知識を十分に学ばないまま過ごしてきた中高年世代が、自身の体調の変化だけでなく、職場での同僚や部下に対する健康配慮、家庭における性教育の場面などで、困難に直面している。そんな大人たちの戸惑う声を拾いながら、性教育の学び直しにつながる記事を随時お届けします。

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