【プシェボドフ=大内清、ロンドン=板東和正】ポーランド東部プシェボドフにロシア製ミサイルが着弾して2人が死亡した問題は、核保有国ロシアと対峙(たいじ)する欧米各国の温度差を浮き彫りにした。ウクライナ軍の迎撃ミサイルが落下したとの見方を強める欧米諸国に対し、ウクライナ側は露軍の攻撃だとの主張を続け、欧米外交筋からも批判が出始めた。対露連携にきしみが生じかねないが、ロシアの脅威に危機感を深める近隣国に、防衛強化の取り組みを促そうとしている。
プシェボドフは人口約400人の集落。着弾地点に続く道路は警察によって封鎖され、報道陣が詰めかけて、ものものしい雰囲気が漂っていた。住民の女性2人は口々に「あんな怖い思いはもうしたくない」「誰にも味わってほしくない」と語った。
ポーランドのドゥダ大統領は17日、着弾現場を視察し、「わが国を狙ったものではない。悲劇だ」と述べた。一時、厳戒態勢を敷いた同国だが、ロシアによる攻撃を防ぐウクライナの迎撃弾との見方を欧米当局が提示。ポーランドが加盟する北大西洋条約機構(NATO)に戦禍が広がるとの当初の緊張感は和らいだ。
だが、余波は広がっている。NATOは「ロシアが攻撃的な軍事行動を準備している兆候はない」(ストルテンベルグ事務総長)と冷静な対応を促したが、ウクライナのゼレンスキー大統領は「露軍のミサイルだったと疑っていない」との立場を繰り返している。
自国軍の報告を根拠にしたゼレンスキー氏の主張にバイデン米大統領も17日、「それは証拠ではない」と指摘。英紙フィナンシャル・タイムズは「(ウクライナは)堂々と嘘をついている。私たちの信頼を壊そうしている」と非難する欧米外交官の声を伝えた。
NATO側がウクライナと距離を置くのは、ロシアとの紛争に巻き込まれるリスクを懸念したためだ。NATOの条約第5条に基づき、仮に着弾したミサイルがロシアの意図的な攻撃だった場合は、NATO全体で反撃に出ることになる。
ただ、発動には加盟30カ国すべての支持が必要とされ、ハードルは高い。ドイツのショルツ首相は「慎重な(現地)調査を行う前に拙速な結論を出すべきではない」との立場を示した。
一方、ロシアと地理的に近いバルト3国は警戒を強めている。リトアニアのナウセーダ大統領は「NATOの領土の隅々までの防衛が必要だ」と強調。英メディアによると、ナウセーダ氏は同国の防空部隊の警戒レベルを引き上げ、ウクライナ国境や東欧方面の防空態勢の強化をNATOに求めた。
ラトビアのリンケービッチ外相も当初、「ロシアのミサイルが加盟国の領土を攻撃したことは、クレムリンによる非常に危険なエスカレーションだ」と厳しい対露警戒をみせていた。
ウクライナを侵略したロシアへの対応では、NATO加盟国間にこれまでも温度差があった。侵略前にイタリアのドラギ首相(当時)が侵攻開始に懐疑的な見方を示したが、リトアニアは「(ロシアが)本当に戦争の準備を進めている」と警戒を呼びかけるなど、対露不信の根深さをみせた。
ストルテンベルグ氏は今回の問題について「ロシアが最終的な責任を負っている」とウクライナを擁護すして連帯を示している。
ただ、ある欧州の軍事専門家は「ウクライナとNATOの見解の相違やNATO加盟国の温度差が目立つと、(そこにつけこんで)ロシアがウクライナや近隣の領土を侵攻しやすくなる恐れがある」と述べ、懸念を示した。