深刻な懸念表明も、険しい中国抑止の道のり

会談前に言葉を交わす岸田首相(左)と中国の習近平国家主席=17日、バンコク(代表撮影・共同)
会談前に言葉を交わす岸田首相(左)と中国の習近平国家主席=17日、バンコク(代表撮影・共同)

【バンコク=田中一世】岸田文雄首相が日中首脳会談で問われたのは、3期目に入って絶大な権力を手にした習近平国家主席に対し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)などをめぐる日本の懸念と強い覚悟を伝えられるかどうかだった。中国の意思決定者に明確なメッセージを送ることが中国を抑止する一歩になり、首相は「深刻な懸念」を表明したが、習氏に理解させるのは容易ではない。

約3年ぶりの対面での首脳会談は、首相が中国側の宿泊先のホテルを訪ねる形で行われた。冒頭、習氏は満面の笑みで首相を迎え、首相も笑顔を見せて握手を交わし、和やかな雰囲気で始まった。

首相は「日中は地域と国際社会の平和と安定にとって重要な責任を有する大国だ。『建設的かつ安定的な日中関係』の構築を双方の努力により加速していくことが重要だ」と訴えた。習氏も両国関係の重要性を強調した。

一方で首相は「日中関係は協力の可能性とともに、多くの課題、懸案にも直面している」とも語った。

これまで、日中関係改善を目指して習氏に対話を呼びかける一方、「主張すべきは主張する」と強調してきた。尖閣諸島周辺の領海では中国公船の侵入が頻発している。8月には日本の排他的経済水域(EEZ)に中国の弾道ミサイル5発を撃ち込まれた。首相は習氏との会談でこれらの問題を挙げて「深刻な懸念」を表明した。

13日の東アジアサミットでは、中国の李克強首相を前に「東シナ海では中国による日本の主権を侵害する活動が継続、強化されている」と名指しで発言した。中国側が憤慨し、岸田首相と習氏との会談を中止する可能性もあった。首相周辺は「踏み込んだのは首相の判断。リスクは覚悟の上だった」と解説する。

とはいえ、李氏は退任が既定路線で、レームダック(死に体)化が指摘されている。「中国の意思決定の99%を決める」(外務省幹部)といわれる習氏に日本の懸念と覚悟を理解させる必要があった。ただ、首相は会談後、記者団に、環境や医療の協力促進など一致事項を紹介する一方、自身の「深刻な懸念」に対する習氏の反応は「私から申し上げるのは国際会議のルールに反する」と述べるにとどめた。政府関係者によれば、習氏は従来の主張を展開したという。

習氏は尖閣諸島は「固有の領土」、台湾問題は「核心的利益中の核心」と主張している。軍拡路線を突き進み、米国と世界の覇権を争う習氏が日本の主張に耳を傾けさせるには、主張だけでなく防衛力の強化も欠かせない。

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