「運転席のないバス」が走る町 無事故で2年、1万2千人運ぶ

茨城県境町の自動運転バス。全国初の自治体による公道での定期運行が始まって2年になる(谷島英里子撮影)
茨城県境町の自動運転バス。全国初の自治体による公道での定期運行が始まって2年になる(谷島英里子撮影)

全国で初めて自動運転バスの公道での定期運行を始めた自治体が、茨城県にある。利根川沿いの「河岸(かし)の町」こと境町。運行開始から今月で丸2年、無事故で約1万2千人を運んだ。人口減少と高齢化の時代、お年寄りが車を運転できなくなっても、技術の力で買い物や通院に困らず暮らしていける社会が、すぐそこまでやってきている。

フランス製のEV車

大きな窓ガラス越しに流れる古い町並みが、近未来の景色に見えた。

鉄道のない境町で、高齢化が進む町民の足を確保しようと令和2年11月、運行が始まった自動運転バス。

11人乗りの車内に運転席はない。オペレーターと呼ばれる運転手が立ったまま乗車し、ゲーム機のようなコントローラーで交差点の通過などの操作を行う。

バスはフランス製の電気自動車(EV)で、時速は20キロ未満。2系統の計18便を毎日運行し、運賃は無料だ。5年で5億2千万円の事業費は、ふるさと納税や補助金を活用する。バス側が物損被害を受けた「もらい事故」1件を除き、無事故が続いている。

興味があって乗ってみたという町内の会社員、柿沼健作さん(49)は「自分もいつか年を取る。その時、移動のための選択肢になっていれば」と話した。

発案者の橋本正裕町長(46)は「年齢を問わず、抵抗感なく利用が進んでいる。今後は運行頻度を増やし、さらに使いやすくしていきたい」と語る。

レベル4を実証へ

自動運転と一口に言っても、操作の一部をシステムが支援するレベル1(運転支援)から完全自動運転のレベル5まで5段階ある。

境町の自動運転はレベル2(部分自動運転)。運転席がなく、ほぼシステムが操作しているように見えるが、運行を担うソフトバンクの子会社「BOLDLY(ボードリー)」(東京)の星野達哉さん(33)は「信号機のある交差点を自動で通過することは難しいため、必ず止まる設定にし、オペレーターが確認して通過している」と説明する。

同社に限らず、国内でレベル3、4への課題は「信号機をどう通過させるか」だという。現在、国内で認められているのはレベル3(条件つき自動運転)まで。ホンダが3年3月、世界で初めて限定100台で発売した「レジェンド」がレベル3だが、これは信号機のない高速道路で渋滞中という、特定の条件下でシステムが操作するものだ。

ただ、来年4月にはレベル4(高度自動運転)の新ルールを定めた改正道交法が施行予定。ホンダは年内にも、栃木県の宇都宮市と芳賀町の公道で、レベル4の車両を走らせる技術実証を行う準備を進めている。

安全とコスト課題

自動運転をめぐっては安全性の課題もぬぐえない。昨年の東京パラリンピックでは、トヨタのレベル4の自動運転EV「イーパレット」が選手村を走行中、視覚障害のある選手に軽傷を負わせる事故が起きた。

国の重点の一つは、人口減少によりバスやタクシーの廃止が相次ぐ中山間地域だ。国土交通省は平成29年度から全国18カ所で、道の駅などを拠点とするレベル2の自動運転サービスの実証実験を行った。

このうち全国4カ所で実用化。令和元年11月、全国に先駆け有料サービスが始まった秋田県上小阿仁(かみこあに)村では、ヤマハの7人乗りEVが道路に埋め込まれた電磁誘導線に沿って走る。平日午前の1便のほか、予約で運行される。

課題はコスト面。電磁誘導線を敷く初期費用がかかるほか、安全のため乗務員が必要で、自動運転で期待される低コストでの運行にも限界がある。国交省によると、運賃は200円で直近の利用者は1日平均7・7人。国の補助金なしには運営できないのが実情だ。(谷島英里子)

【自動運転車】 車に搭載したカメラやセンサー、衛星利用測位システム(GPS)で位置や周囲の状況を把握し、ハンドルやアクセル、ブレーキを人に代わって自動で操作し走行する車。鉄道やバスの廃止路線に代わる高齢者の移動手段として期待されている。

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