11日に開幕したANAウインドサーフィンワールドカップ(W杯)横須賀・三浦大会の会場で、世界トップクラスの選手の動きを先端技術で再現するNTTのシミュレータ―が話題を呼んでいる。海上で取得したサーフボードの傾き、帆の角度などのデータを陸にあるシミュレータ―側にリアルタイムで高速通信し、利用者はプロの技を体感することができる。NTTはさらに改良を重ね、選手らの練習に活用してもらうことで競技レベルの底上げに貢献していく。(高木克聡)
シミュレータ―で使うデータは、競技中のボードに傾きや速度などをとらえるセンサーを搭載して取得し、第5世代(5G)移動通信システムで高速通信する。シミュレータ―は実物のボードと同じ大きさで、データに基づいて海上のボードの状況を再現するようにして動く。
選手が装着した360度カメラで撮影した周囲の景色がシミュレーター前方のディスプレーに映し出され、利用者は波の揺れやバランスを崩した際に体勢を素早く立て直すトップクラスの選手の動きを体感できる。12、13日には一般の人も体験できる。
NTTは昨年夏、選手のデータ収集を開始。選手へのインタビューなどから個々が感じている定性的な感覚も分析して動きの再現に役立てた。NTTによると、通常は数百メートルしか届かない5Gの電波をNTTドコモのノウハウを活用して約1キロ先まで飛ばすことで、海上のボードとシミュレーターの間のデータのやりとりを実現したという。
11日にシミュレーターを体験したアマチュアサーファーは「実際の海の上にいるような感覚になった」と驚く。本格導入されれば、上級者が海でどのように動いているかを体で覚えたり、海上の選手の動きをコーチがシミュレーター上で〝共有〟して課題を見つけて指導するなど、新たなトレーニング方法につながりそうだ。
NTTは今後、シミュレーターを練習で使ってもらいながら効果などを検証するとともに、再現の精度向上に向けて改良を進める。担当者は「世界の一流選手のボードの速度は平均時速60キロで、日本選手は50キロほどとされる。装置で体の使い方の工夫などを学び、競技レベルを向上につなげてもらいたい」と話す。
外国人の発音、プロ奏者の手の動きも
NTTグループは人の身体能力を補完して高める「人間拡張」技術の研究開発を進めており、ウインドサーフィンのシミュレータ―は取り組み事例の1つとなる。
第一人者の動きを別の場所にいる人に伝えて再現する技術が実用化されれば、語学学習で外国人の発音のコツを体感できるように口を動かしたり、楽器を演奏する手がプロ奏者と同じ動きをするよう導いたりすることができるとされる。人工知能(AI)などが人の動きを予測し、機械の操作をサポートすることも可能になるといわれる。
NTTグループは2030年代の実用化を目指す独自の超高速通信や第6世代(6G)移動通信システムでの有力な活用事例と位置づけている。