畜産ITベンチャーのコーンテック(熊本市東区)は、米アップルのスマートフォン「iPhone Pro(アイフォーン プロ)」のカメラでブタを撮影するだけで、ブタの体重を自動で計測できるサービスを開発した。「プロ」に搭載されている、レーザー光による3次元の形状計測と距離測定を行う最新技術「LiDAR(ライダー)センサー」を活用。世界で初めて3次元の形状計測からブタの体重を量ることができるようにした。
生まれた直後のブタの体重は約1キロだが、約半年で100キロ前後に成長する。そのため、ブタを体重計に乗せるには数人がかりの作業となる。場合によってはブタが興奮して飼育員にけがを負わせることもある。このサービスを使えば、わずか10秒でブタの体重が計測でき、飼育員の労働環境の改善が図れる。
ブタの体重自動計測サービス「PIGI(ピギ)」は、過去3年間に収集した数万頭のブタの画像や体重など紐づけたかたちで人工知能(AI)が学習。専用のアプリを使って、ブタを撮影すると、AI内で立体画像を生成し、よく似た体型のブタの画像から体重をはじき出す。
「12プロ」、「13プロ」、「14プロ」と、タブレット端末の「iPad Pro(アイパッド プロ)」で2020年以降に発売された機種に対応している。サービスの価格は月9878円。12月には英語、スペイン語、ドイツ語、台湾語版の専用アプリも投入する。外国語版の価格は現時点では未定。
誤差は平均で2キロ
開発に先立ち、NTT東日本、養豚農家の臼井農産(神奈川県厚木市)と共同で実証実験に取り組んだ結果、「誤差は平均で2キロ程度。さらなる画像収集でAIが学習を進めれば、精度が向上する」(コーンテックの吉角裕一朗社長)という。
ブタは一度に約10~20頭の子ブタを産み、年に2回分娩するため、1年に約20~40頭の子ブタを産むことになる。小規模の養豚農家でも数十頭、大規模のところでは数十万頭のブタを飼育している。ブタの体重計測は出荷までに少なくとも5回行う必要があり、大規模な養豚農家ではほぼ連日体重の計測が行われている。
ただ、ブタは神経質な動物のため、体重計に乗るのを嫌がり、暴れることもある。スポーツに置き換えて例えると、ラグビー選手が目の前で突進してくるようなものだという。そのため、安全な体重計測法が求められていた。
将来的には、あらかじめ出荷に適した体重を登録することで、撮影したブタが出荷に該当するかどうか、また出荷時の肉質なども判別できるようにしたい考えだ。これらの機能が実用化されれば、勘と経験に頼ることなく、安定した品質のブタを育てることが可能になる。
養豚農家の経営体質改善にも
農林水産省の畜産統計によると、令和4年2月1日現在の養豚農家数は3590戸で、前年比で6.8%減。平成24年(5840戸)の約6割の水準にまで落ち込んでいる。少子高齢化のなかで、後継者難を理由に廃業せざるを得ないケースが増えている。
トウモロコシや大豆はブタにとって消化が良いことから、餌として多用されているが、ここ数年は世界的な価格高騰にさらされ、年初来の円安がそれに拍車をかけている。経営危機に瀕している養豚農家も少なくないという。
ブタの飼育では、国内自給率が90%超のサツマイモやコメを餌として活用できることから、吉角社長は「餌の成分配合比率などもAIに取り込んでいけば、国内の養豚農家の経営体質改善にもつながる」としている。(松村信仁)