不登校の小中学生が急増している。令和3年度の文部科学省調査で24万人を超え、約10年前からほぼ倍増した。子供の居場所確保が重要な課題となる中、受け皿として存在感を示すのが「フリースクール」だ。新型コロナウイルス禍で、一部ではメタバース(仮想空間)を活用した取り組みも進む。ただ公的支援は乏しく、ニーズが高まるほど運営が行き詰まるといったジレンマにも直面している。
オンラインでディベート
「鍋のシメは雑炊かラーメン。どっちがいい?」。今月上旬、身近な話題をテーマにしたディベートがオンライン上で始まった。小学4年の男児や中学3年の男子生徒らは、ニックネームをつけた自分の分身(アバター)を通じ、議論を進める。<種類が豊富だから麺がいい><麺はのびるよー>。音声や文字のチャットを使ってディベートを続け、盛り上がっていた。
ここは子供たちがオンラインで交流できる仮想空間「かがやきの森」。大阪府八尾市のフリースクール「輝(かがやき)」が昨秋からスタートさせた試みだ。不安感からフリースクールに足を運べない子供とつながるツールとして導入された。
「森」では連想ゲームや、画面上のルーレットで示されたテーマに沿ったプレゼンテーション、物語の創作などさまざまなプログラムがある。これまで小中学生14人が参加し、四国や九州からの参加者もいた。
安心できる場で成長
「びくか」のニックネームで「森」に参加する中学3年の男子生徒(15)は小4時から学校に行けていない。「クラス全員が敵に見えていた」といい、一時期は外出もつらかった。
生徒は言う。「不登校でしゃべりたい気持ちが強くなる子は本当に多い。オンラインは新しい居場所だ」。
元中学教諭で運営を担当する高野博之さん(60)は「家からも出られなくなった子供は雑談をする相手も場所もない。ここで気負わずにいろいろな話をしてほしい」と話す。
スクールでの交流がきっかけで、再び学校に通ったり、別の進路を見つけたりする子もいる。高野さんは「安心できる場でのやり取りが子供たちを成長させる」と実感を込めて語る。
届かぬ支援、CFで調達も
平成29年施行の教育機会確保法は、フリースクールなど学校外での学習の重要性を明記。文科省によるとフリースクールなどの民間施設で指導を受けるなどした児童生徒は令和3年度に約9千人に上り、ここ5年で3倍になった。
一方で課題も明らかになっている。平成27年の文科省調査によると、フリースクールの運営主体の約3割は法人格を持たない任意団体や個人。支援が届きにくい組織もあり、規模が小さいほど打撃も大きい。
滋賀県彦根市のNPO法人「フリースクールてだのふあ」では、1年半ほど前には5人しかいなかった利用者が約30人に増えた。使用していた施設が手狭になり、スクールはこの間に彦根市内で2回も移転。新たに使う備品をそろえるため今夏にはクラウドファンディング(CF)を実施し、直接の寄付を合わせて約300万円を集めた。
スクールの運営は厳しい。山下吉和代表(61)によると、運営自体を補助する行政の制度はなく、主に利用料に頼るしかない。
山下代表はスクールの意義について「多様化する社会の中で公教育以外の選択肢にもなる」と強調。公的支援があれば、運営にかかる労力を子供たちにより向けられるとして「教育の質を高める意味でも公的支援は必要だ」と訴えた。
約80団体が加盟するNPO法人「フリースクール全国ネットワーク」(東京)の江川和弥代表理事によると、国からの運営団体や利用者への支援は存在せず、自治体でもその厚みに差があるのが現状だ。「予算の配分をフリースクールなどへ振り分けられるよう教育政策を見直し、大胆に変えていくべきだ」と訴えた。(木ノ下めぐみ、前原彩希)