超高性能SUVだからこそ味わえる別世界 アストンマーティンDBX試乗記

スーパーSUVと呼ぶに相応しい仕上がり

もっとも、ここでハンドリング最優先の超スポーティな足まわりにしなかったところに、ベッカーの慧眼振りが表れているともいえる。

彼はドライバーが心地よく、そして意のままに操れるハンドリングに仕上げるいっぽうで、乗り心地はできる限り快適な方向に振った。

しかも、フロントサスペンションまわりの圧倒的な高剛性を武器にして、バツグンに芳醇なステアリングフィールをも生み出したのである。

ハンドリングがDBXよりスポーティなSUVは、もしかしたらどこかに存在しているかもしれない。乗り心地がDBXよりも快適なSUVだって、ないわけではないだろう。でも、これだけ正確なハンドリングと質の高い快適性を備えたSUVは、世界中探しても見つからないと、私は信じている。

あらためて東京の街をDBXで走ると、その懐の深い快適性の高さに心を打たれる。タイヤのあたりが柔らかいだけでなく、そこからサスペンションが深くストロークしようとしたときにもスムーズさを保ちつつ、できるだけフラットな姿勢を保とうとする。

しかも、ステアリングは指先の動きがそのまま前輪を通じて路面に伝えられているかのようにダイレクトで、遅れやあいまいさを一切感じさせない。だから、どんなときにもドライバーにストレスを与えない。まさしく、これまで様々なクルマを乗り尽くしてきた、オトナのためのスポーティ・ハンドリングといえるだろう。

550psを生み出すメルセデスAMG製V8エンジンのレスポンスも良好。正確なハンドリングとあいまって、ワインディングロードでは痛快な走りが楽しめる。それでいながら市街地での快適性を一切犠牲にしていないのだから、やはり驚くしかない。

これに比べると、DBX707は足まわりがかすかに硬くなっているように感じる。ただし、オリジナルDBXにはないカーボンセラミック・ブレーキを標準装備し、バネ下重量を40.5kgも軽減。これをもって、路面からのゴツゴツ感を最小限に留めている。さらにいえば、強化されたサスペンションと、最高出力707psのパワフルなエンジンが生み出す走りは実にエキサイティング。しかも、ロールの仕方に腰高感がまったくないので、極端な話、サーキット走行でも不安を覚えることがない。まさに、スーパーSUVと呼ぶに相応しい仕上がりである。

つまり、快適性とバランスのよさを求めるならDBX、そこからさらにパフォーマンスを重視したいという向きにはDBX707がお勧めだ。

いずれにせよ、DBX707のような超ハイパフォーマンスSUVが誕生したこと自体、オリジナルDBXのポテンシャルの高さを示すものといえるだろう。

文・大谷達也 写真・安井宏充(Weekend.)

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