モビリティー新時代

EV走行距離課税に改竄・個人情報の壁 日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

参院予算委で答弁する鈴木俊一財務相=10月20日、国会・参院第1委員会室(矢島康弘撮影)
参院予算委で答弁する鈴木俊一財務相=10月20日、国会・参院第1委員会室(矢島康弘撮影)

鈴木俊一財務相は10月20日、電気自動車(EV)の走行距離に応じた課税の導入に関する参院予算委員会での質問に対し、「一つの考え方だと思っている」と述べた。現在の道路財源は燃料税によって成り立っているが、EVが増加すれば燃料を使わなくなり、燃料税が次第に減少していくため、何らかの手当てが必要との考え方と思われる。

一方、EVの走行距離に応じた課税といっても、まだまだ課題があるように思われる。今回はその課題について考えてみたい。

走行距離課税の最も簡単な方法は、ドライバーが1年間の走行距離を記録し、自己申告を行って、その結果に対して課税することだろう。しかし、ドライバーが正直に自己申告したのか、はたまた過少申告したのか、第三者からは判断できない。また全てのドライバーにそのような負担をお願いすることも現実的でない。さらには不正の温床として、メーター走行距離の改竄(かいざん)の恐れもある。

もう一つの方法は、車両にGPS(衛星利用測位システム)と連動した走行距離測定機器を設置し、政府がドライバーの走行距離を把握する方法である。これとて、設置機器費用の発生、計測データの管理、さらには位置情報も含まれるとなると、政府がプライベートな情報まで把握することとなり、個人情報保護の観点からも難しい問題が出てくる。

EV化が先行する欧州では、課題が多い走行距離課税に対して、車体課税の分野で、これまでの排気量基準に加え、二酸化炭素(CO2)排出量基準も取り入れて先行導入している。日本もEV普及はかなり時間がかかる見込みであることから、その前にCO2排出量基準、EV走行距離課税のどちらかなど、将来の自動車関連税制について吟味することが必要ではないだろうか。

わだ・けんいちろう 新潟大工卒。平成元年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、17年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。25年3月退社。その後、27年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。66歳。福井県出身。

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