スポーツ界の新たな収入源として、ふるさと納税を活用する競技団体がある。日本ライフル射撃協会は昨年だけで100万円を超す寄付金を集めた。使途に制約はあるものの、自己財源の不足に苦しむアマチュア競技にとって、明るい材料といえる。ふるさと納税は救世主となるだろうか。
活用したのは、東京都新宿区が2021年度に創設した「ふるさと新宿区わがまち応援寄附金」。寄付者が応援したい区内の団体を指定すると、寄付金の7割が団体に、3割が区に入る仕組み。同区には、日本スポーツ界の中核をなす「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア(JSOS)」があり、そこに入居する日本オリンピック委員会(JOC)や各種競技団体は、同制度の支援を受けられる。
日本ライフル射撃協会が全国の会員に同制度の活用を呼びかけたところ、昨年分(4~12月)だけで160万円(14人)の寄付があり、7割に当たる112万円を新宿区から受け取った。
区は「区や区民に還元されるような使途が望ましい」とし、選手強化費などに充てることはできない。同協会は今年度、ビーム射撃の体験会を同区内で2度開いており、ふるさと納税の寄付金を開催費に充てたという。
また、寄付者が住む8都府県の加盟団体に、寄付金の半分を交付した。各地での若手の発掘や、競技の普及振興に結び付く事業に活用される見込みだ。
同協会の松丸喜一郎会長は「今後は約7千人の会員だけでなく、射撃を応援したい人にも寄付を呼び掛ける。そのためにもファンを増やしたい」と話す。障害の有無や年齢、性差に関係なく、手軽に楽しめるビーム射撃の体験会は、ファン開拓の足掛かりになるというわけだ。
国の選手強化費は、今年度100億円を超える予算が確保されたが、東京五輪・パラリンピックが終わり、国の支援は減っていくと予想される。五輪後はスポンサー離れも目立ち、各競技団体が自由に使える財源は縮小する一方だ。
米国オリンピック委員会(USOC)は国費に頼らず、主に寄付金と事業収入で米国代表の活動資金をまかなっていることが知られている。一方、日本では、スポーツ界への寄付文化がまだ根付いていない。
松丸氏は、JOCを通じてふるさと納税活用の周知を呼びかけたが、いまのところ活用に乗り出す競技団体は他にないという。競技人口や会員数の多い団体が制度を活用すれば、大きな収益の柱になる可能性もあるが、感度の鈍さが気にかかる。(運動部 森田景史)