患者目線で機器改良
今回紹介する「ZAP-X」はサイバーナイフからの発展型です。より治療が効率的に、安全に行われるようになったことで、これまでは大規模施設にしか置けなかったガンマナイフやサイバーナイフと異なり、クリニックなど小規模施設にも設置できるようになり患者さんにとってより身近な存在となりました。
この「ZAP-X」の特徴をお話しする前に、開発の趣旨経緯について述べたいと思います。この機器とサイバーナイフの開発者は米国の脳神経外科医、ジョン・アドラー氏です。
研修医時代に、手術と同じ効果をもつガンマナイフを学んだアドラー氏は患者さんの負担を軽減する機器の開発を目指しました。ガンマナイフは放射線を照射する際、頭を固定するために、局所麻酔を使用し頭蓋骨までピンを挿入しなければなりません。アドラー氏はこうした固定の必要がない方法を模索したのです。そうして、ピンで固定する代わりに顔と頭を固定する装着マスクを使用することにしました。
しかし、装着マスクだとピンで固定するよりも頭の動きが生じやすく、頭が動いた分を補正する必要があります。そこで、アドラー氏は自由自在に動く工業用ロボットに着目し、ロボットのアームの先端に放射線装置を付けたのです。放射線の照射の最中に、レントゲンで頭蓋骨の写真を撮り、元の位置から動いたずれをロボットアームで補正するという機器を開発したのです。それがサイバーナイフです。
心身にやさしい治療法
今回は放射線治療の最新機器である「ZAP-X」(以下、ZAP)の特徴をお話しします。サイバーナイフ(以下、サイバー)を開発した米国の脳神経外科医、ジョン・アドラー氏は、患者さんにとってより治療が効率的、安全に行える機器を目指しました。
サイバーもZAPも頭部の固定はマスクで負担が少ない点は同じですが、サイバーは全身が治療の対象です。ZAPは脳の治療に限定したため機器の構造はコンパクトになりました。
放射線照射にあたり、サイバーは自在に動く工業用ロボットアームを使用しています。そのために、ZAPに比べると患者さんの脳から距離の離れた所に設置されています。ZAPは、アームの動きを、円形のベアリングをふたつ組み合わせ、2軸回転により立体角度範囲を確保するジャイロ構造で再現します。照射の調整は、サイバーはアームの動きで行いますが、ZAPはベッドの動きで微細な調整を行います。
こうした構造により、ZAPはサイバーに比べ、放射線を照射する機器から患者さんの脳までの距離が半分、放射線のエネルギー量も半分となりますので、患者さんの負担はより軽減されることになりました。
また、実際に放射線照射を行う場合、サイバーなど他の放射線機器は、治療計画を立てたのち、事前に模擬模型を使用して計画通りの照射が行えるかシミュレーションし、その結果どおりに治療できるという前提で照射を行います。
一方、ZAPは、照射開始後、リアルタイムで照射状況を計測することができます。そして、事前に計画された放射線量よりも10%過不足が生じた場合、自動的に治療は中断されます。こうして、開発者のアドラー氏が願ったとおりの、より正確で患者さんにやさしい治療が実現したのです。