SAITAMA珍奇ツアー

龍と天狗が眠る「法雲寺」 太古の海の記憶と妖怪伝説 埼玉・秩父

「龍の骨」と「天狗の爪」が置かれている法雲寺の観音堂=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)
「龍の骨」と「天狗の爪」が置かれている法雲寺の観音堂=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)

埼玉県秩父市を中心に広がる秩父札所34カ所の観音霊場は古来、観音信仰巡礼の聖地として人々にあがめられてきた。その30番、創建から700年以上とされる瑞龍山法雲寺(同市)には世にも不思議な寺宝が伝わる。「龍の骨」に「天狗(てんぐ)の爪」…。龍も天狗も妖怪と呼ばれる類(たぐい)の伝説上の生き物として知られるが、実は存在したというのか-。

県内を横切り、全長173キロにも及ぶ荒川。その源流、奥秩父の深い山々に抱かれるように法雲寺はあった。中には手入れされた庭園が広がり、周囲の緑とあいまって静謐(せいひつ)な雰囲気だ。

歩みを進め、件の寺宝が置かれている観音堂へ。近づくにつれ高鳴る胸の鼓動。一角に「宝物」の文字が見えると緊張は最高潮に達した。恐る恐る近づき、ガラス戸越しに対面した。

「なんだこれは」。龍の骨は無数の牙が生えた何かの生物の顎を思わせる茶色い物体だった。ひもが何重にも巻かれた様は、今にも暴れ出しそうな顎を縛りつけているかのようだった。

法雲寺の寺宝「龍の骨」=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)
法雲寺の寺宝「龍の骨」=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)

天狗の爪は、その右隣にあった。黒光りした、逆三角形の鋼鉄のような物体。すぱっと切り裂かれてしまいそうな錯覚に陥った。

龍の骨は、この地に住んでいた悪い龍が観音信仰で良い龍となった後、昇天する際に残したと伝わる。天狗の爪は寺の裏山から出土したものだそうだ。

法雲寺の寺宝「天狗の爪」。サメの歯の化石と推測されるという=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)
法雲寺の寺宝「天狗の爪」。サメの歯の化石と推測されるという=15日、埼玉県秩父市(中村智隆撮影)

龍と天狗は本当にいたのか。住職の浅見道顕さん(55)によると、実は天狗の爪は約2千万年前には存在したとされる巨大なサメ「メガロドン」の歯の化石と推測されるのだとか。龍の骨も恐らく類似したものではないかという。

太古の昔、この一帯は海と陸の境だったらしく、その名残ではないかと浅見さん。ただ昔の人はそんなことは知る由もない。「人は不思議なものを知識の範囲内で想像する。当時の人からすれば紛れもなく龍や天狗だった」(浅見さん)。少なくともそこに、妖怪はいたのだ。

浅見さんは、これらの寺宝を「信仰の対象としてみてほしい」と訴える。札所巡りで川崎市麻生区から訪れていた50代の男性会社員は、「寺宝が残っているのは、令和の時代まで信仰心が伝わっていることの表れだ」としみじみ語った。(中村智隆)

メモ ▽所在地=埼玉県秩父市荒川白久432▽アクセス=秩父鉄道白久駅から徒歩約15分▽周辺情報=「谷津川渓谷」「熊倉城跡」「円通寺のシダレ桜」といった名所のほか、秩父鉄道三峰口駅まで足を延ばせば、「SL転車台公園」もある。

会員限定記事会員サービス詳細