テスラが披露したヒト型ロボットは、その開発の難しさと“秘めたる可能性”を浮き彫りにした

一方で、マスクはロボットの発売時期については示していない。また、想定しているユーザーや、テスラがヒト型ロボットを自社でどんな用途で使う可能性があるのかについても、マスクは明言しなかった。

細かな操作ができる高度なロボットは、自動車のダッシュボードにケーブルを通したり、柔らかいプラスチック部品を慎重に扱ったりもできる。そうなれば、これまで自動化されてこなかった自動車生産の一部を担い、製造分野において重要な存在になる可能性があるだろう。

二足歩行が意味すること

EV業界ではさまざまなメーカーがテスラと競い合っており、利幅が極めて薄い。このため、生産技術の優位性が命運を左右する可能性がある。ところが、自動車メーカーは長年にわたって生産の自動化を進めようとしてきたものの、あまり成功を収めていない。

また、こうした自動車生産の用途においては、ロボットが四肢をもつ設計であることにあまり意味がないかもしれない。かつてヒト型ロボットを開発していたSRI Roboticsのディレクター代理のアレクサンダー・カーンバウムは、極めて複雑な環境においてロボットが立って歩行することだけが本当に理にかなっていると指摘する。「(テスラが)脚に焦点を当てているということは、現実の問題解決よりも“人の心”を捉えようとしていることの表れでしょう」と、カーンバウムは言う。

ミシガン大学教授のグリズルとカリフォルニア大学のクリステンセンは、今後のテスラのデモンストレーションにおいて進歩の兆し、特にロボットの手先のスキルが進化している証拠に注目したいという。物体を持ち上げたり動かしたりしながら2本足でバランスを保つことは、人間にとっては自然であっても、それを機械で再現することは難しい。「目の前にある物体の質量がわからないとしましょう。それでも物体を運んだり動かしたりする際には、体と保持している物体とを同時に安定させる必要があります」と、グリズルは言う。

Fetch Roboticsのワイズも事態を注視している。これまでのところ拍子抜けに終わっているものの、このプロジェクトが危機的状況に陥らないことを彼は願っているという。かつてグーグルがロボット開発プロジェクトに多くの研究者を引き込み、13年にはロボット企業を買収したあげく、日の目を見なかったという不幸な運命をたどったからだ。

この多額の投資を伴ったグーグルの買収には、17年に売却されたボストン・ダイナミクスと18年に事業を終了したSCHAFT(シャフト)という、ヒト型ロボットを手がける2社が含まれていた。「こうしたプロジェクトは終了を余儀なくされる事態が続いてきました。あるとき夢から覚めて、ロボット工学の難しさを理解するのです」と、ワイズは言う。

(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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