「尋ね人 至急参集セヨ」-。そんな古めかしい広告が13日の産経新聞に掲載された。30年近く同姓同名の人を探してきた東京都の会社員、田中宏和さん(53)が代表理事を務める「一般社団法人田中宏和の会」が、まだ見ぬタナカヒロカズさんを探すため広告を出したのだ。広告をきっかけに10人近いタナカヒロカズさんから連絡があり、29日にはこれまで2回挑戦して果たせなかった同姓同名集会のギネス世界記録に挑むが、達成にはあと20人ほどの参加が必要。田中さんは「高齢のタナカヒロカズさんたちもいらっしゃるので、今後こそ記録を達成したい」と意気込む。(道丸摩耶)
田中さんが同姓同名集めを始めたのは平成6年。同年のプロ野球ドラフト会議で同姓同名の田中宏和さんが近鉄バファローズから1位指名を受け、「名前が同じだけで他人の人生を疑似体験できる」と感激したのがきっかけだ。当初は人の紹介が中心だったが、インターネットの登場で、同姓同名と出会える機会は飛躍的に増えた。
23年10月には、漢字も同じ67人の田中宏和さんが東京都内に集合してギネス記録を申請するも、米国のカリスマ主婦、マーサ・スチュワートさんが、テレビ番組の収録で164人のマーサ・スチュワートさんを集めた記録が見つかり却下に。29年にも再挑戦したが、集まったのは87人で、記録達成は持ちこされた。
その後も三度目の正直を狙い続けたが、2年前に計画された集会は、コロナ禍で「田中宏和さんの三密」を避けるため中止。それでもリモートで新たな田中宏和さんと交流するなど活動を続け、新型コロナで亡くなった田中宏和さんの家族からは「世界記録を応援しています」と逆に励まされたという。
活動が転機を迎えたのは今年。これまで同じ漢字の「田中宏和」に限っていた同姓同名の対象を、英ギネスワールドレコーズのルールに従って、読みが「タナカヒロカズ」であれば漢字は問わないと改めた。これにより、一気に問い合わせが増え、連絡を取るタナカヒロカズさんは200人近くに。29日に東京都渋谷区で開催予定の集会には、このうち約140人が参加予定だ。代表の田中さんが活動を始めるきっかけとなった「ピッチャーの田中宏和さん」のほか、北海道から沖縄まで、3~88歳のタナカヒロカズさんが集う。ただ、ギネス達成(164人以上)にはあと20人ほど必要だ。
田中さんは「たまたま同じ名前というだけで、人は仲良くなれる。同じ名前でも全員違う。一人一人の人間は唯一無二の存在」と活動の意義を強調。今回から漢字が違うタナカヒロカズさんが一緒に記録挑戦することを「ちょっとした違いで分断や争いが生じやすい時代に、だいたい同じでいいがコンセプト」と説明し、新聞広告をきっかけにした新たなタナカヒロカズさんとの出会いも心待ちにしている。