「新しい歴史教科書をつくる会」(会長・高池勝彦弁護士)が主導する自由社の歴史教科書が「一発不合格」となった令和元年度の文部科学省の検定を巡り、つくる会などは13日、東京都内で記者会見し、他社版2冊が検定合格後に誤記や表現などを修正する大量の訂正を同省に申請していたとする独自調査の結果を公表した。自由社版は修正が必要となる欠陥箇所(検定意見)が「著しく多い」ことを理由に不合格とされたが、他社版は結果的に自由社版を上回る修正を行っているとして、検定の公平性に対する疑念を表明した。
元年度の検定で、自由社版には405件の検定意見が付けられた。ページ数の約1・3倍に上ったため、審査基準の「欠陥箇所が著しく多い(ページ数の1・2倍以上)」場合が適用され、年度内に再申請ができない一発不合格となった。
つくる会側は昨年、当時の検定に合格した7冊の歴史教科書について、文科省が保管する検定済み教科書の訂正申請に関する書類の開示を請求。開示された書類を調べたところ、2冊の修正件数が突出して多いことが判明した。仮にA社版、B社版として、自由社版に対する検定と同じ水準で検証すると、修正件数はそれぞれ710件、626件となったという。
当時の検定ではA社版に38件、B社版に24件の検定意見が付いた。つくる会は、これに検定後の修正件数を加えた上で、社会状況の変化に伴う記述の変更など妥当とみられる修正件数を除く分析を行った。分析結果から、つくる会は、検定で指摘されるべきだった修正件数が、A社版で514件、B社版で521件だったと主張している。
つくる会の藤岡信勝副会長は「これらの修正は、本来なら自由社版にしたように検定段階で教科書調査官が指摘しなければいけなかったことだ」と指摘。合格後に作られる見本本から修正箇所の割合を算出すると、2冊ともページ数の1・2倍を超えることになり、「一発不合格となった可能性がある」とした。
藤岡氏によると、A社版の修正内容には、沖縄出身の歴史学者「伊波普猷」を「いふはゆう」としたルビの誤りを「いはふゆう」に修正するなど、誤記も目立った。B社版にも、ルビや年代の誤りが多数確認された。高池氏は「調査官でも誤りを見逃すことはあるだろう。だからこそ、『一発不合格』がいかに不合理な制度であるのか、ということを訴えたい」と語った。
元年度の検定を巡っては、自由社が昨年9月、違法性を主張して国などに損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。今回の調査結果は、13日にあったこの訴訟の口頭弁論で自由社側が提出した。
文科省教科書課は「係争中の案件なので詳細な回答は差し控える」としつつ、「検定は学術的、専門的な観点から、法令に基づき適正に行われたと考えている」との見解を述べた。
自由社版は中学校歴史教科書で、元年度検定の前回となる平成26年度検定でも358件の検定意見が付き不合格となったが、年度内に再申請して合格した。27年度に検定の実施細則が変わり、審議時間を十分に確保するため欠陥箇所数が著しく多い場合は年度内に再申請できなくなった。
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■検定済み教科書の訂正 検定合格後、教科書会社が記述などの修正を文部科学省に求める制度。誤植や脱字のほか、議員定数や国名の変更など学習に支障をきたす恐れが生じる記載には修正が義務付けられており、検定終了直後から申請可能。改元やノーベル賞受賞といった状況の変化に伴う記述の変更などは教科書会社の判断に委ねられており、検定が実施された翌年度の6月から受け付けている。