国連総会での中国外相「一つの中国」演説に台湾・大阪処長が怒り

産経新聞の取材に応じる台北駐大阪経済文化弁事処の向明徳処長=大阪市北区
産経新聞の取材に応じる台北駐大阪経済文化弁事処の向明徳処長=大阪市北区

前例のない頻度でミサイル発射を続ける北朝鮮。日米韓3カ国は9日、朝鮮半島の緊張を高める挑発行為を直ちにやめるよう求めたが、中国は黙認の構えを見せている。一方、先月の国連総会一般討論演説では王毅国務委員兼外相が「一つの中国」を改めて強調し、波紋を呼んだ。台北駐大阪経済文化弁事処の向明徳(こう・めいとく)処長は産経新聞の取材に応じ、「不当な主張の黙認は東アジア地域を不安定化させる」と指摘。米国の「台湾関係法」に類する法律の策定が日本にも必要だとの認識を示した。

台湾海峡の緊張感が一段と高まったのは、ペロシ米下院議長が台湾を訪問した今年8月だ。米連邦議会が「台湾を見捨てない」姿勢を打ち出すと、中国人民解放軍は同月4日、11発もの弾道ミサイルを発射。うち5発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾し、「台湾有事」が「日本有事」につながる可能性が高いことを改めて示した。

そうした中で9月24日、米ニューヨークでの国連総会一般討論で、王氏は「台湾は中国の不可分の領土の一部」と強調した。台湾メディアなどによると、王氏は「一つの中国」は「国際社会で普遍的な共通認識」だと主張。中国の統一を阻もうとする試みは「歴史の車輪に砕かれる」とも述べた。

王氏のこの発言に、台湾側は強く反発。台湾の外交部は「台湾は専制主義の中国には属さない」とのコメントを発表した。台北駐大阪経済文化弁事処の向処長も、「台湾と中国はそれぞれ別の政府に統治され、隷属していない。台湾を属国とするかのような発言は到底容認できない」と強調する。

中国が主張する「一つの中国」原則の根拠の一つは、中華民国(台湾)に代わり中国の国連代表権を認めた1971年の「国連総会2758号決議」だ。中国はこれも根拠に各国に台湾との国交断絶を迫っている。だが向処長は、「決議は台湾の地位に何ら言及しておらず、国連の代表権をわざと『一つの中国』と混同させている」と指摘する。

日本は1972(昭和47)年の日中国交正常化に伴い台湾と断交しており、外交関係がない。「一つの中国」に配慮し、経済や文化など「非政府間の実務関係」だ。一方、米国は1979年に中国と国交正常化する際に「台湾関係法」を定め、断交後の台湾の地位を法的に規定。トランプ前政権後期から中国への対抗に乗り出し、台湾への軍事支援を強めてきた。

向処長は、「台湾は中国との戦争を望んではいない。台中問題は平和的手段で解決すべき」とする一方、「中国の圧力に屈せず自由と民主主義を守り、戦争を防ぐためには、抑止力が極めて重要だ」とも主張した。

台湾の蔡英文政権は、「台湾人が民主的な選挙を通じて選んだ政府だけが台湾人を代表できる」との立場を堅持。国際社会に対し、国連加盟への支持を訴えている。

向処長は「台湾は断固として主権と安全を守り抜き、責任ある国際社会の一員として中国の挑発に抑制的に対処する。価値観を共有する日本など世界各国とともに地域の平和と安定を支え、国際的な責務を果たす」と語った。(矢田幸己)

会員限定記事会員サービス詳細