人はなぜ絵を描くのか。唐突な問いだが、その答えを探っていくと人間の本質に行きつく。芸術の誕生という人類史の大きな謎に脳科学が挑んでいる。
見事な洞窟壁画
フランス南西部にある世界遺産のラスコー洞窟。内部の壁には、牛や馬などの動物たちが生き生きとした姿で見事に描かれている。約2万年前の人々が暗い洞窟の中で、動物の脂で明かりをともしながら描いた。
赤や黄褐色、黒などの顔料を使い分け、遠近法も駆使した描写は高い知性を感じさせる。物の形を具体的に描けるのは、われわれ現生人類のホモ・サピエンスだけだ。約4万~1万5000年前に描かれた洞窟壁画は欧州の400カ所近くで見つかっているが、ほとんどの絵は動物だ。当時は狩猟生活だったので、動物に強い関心があったのだろう。
なぜ描いたのか。狩りの成功や動物の繁殖を願う呪術、自分たちの祖先と考えた動物への崇拝、ライオンなどの危険な動物の駆除、神話や儀式のためなど多くの説があるが、まだ解明されていない。