知財ビジネス

特許情報開示、企業と投資家結ぶ弁理士

企業の投資家向け情報開示で、知的財産の専門家である弁理士が関与する動きが出てきている。「志ある弁理士が企業と投資家を結ぶため、さまざまな活動を始めている」と語るのは日本弁理士会の元副会長で、正林国際特許商標事務所の正林真之弁理士だ。背景には東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)改訂で、企業が投資家に対し、いかに知財に投資し、獲得し、経営に生かしているか情報開示を促されたことがある。

企業価値向上のための知財情報開示支援を目指して活動を進めているのはIPNJ国際特許事務所の乾利之弁理士だ。支援に生かすため知財情報開示レベルと株価の相関を独自に調査した。「昨年11月時点では相関なしと結論づけたが、開示効果が出るには数年かかるとの見方もあり、今年9月に追跡調査を始めた」という。検証し、年内にもまとめる。

今年4月に開業した高野誠司特許事務所の高野誠司弁理士は本業である特許出願代理業務は一切せず、特許価値の研究と投資のみで活動している。高野氏は大手シンクタンク在籍時の平成8年にウェブで特許情報提供サービスを日本で初めて実施以降、25年以上活動してきた特許情報のプロだ。その独自ノウハウで企業の特許を分析し、株式約200銘柄へ投資している。高野氏は「TOB(株式公開買い付け)を誘引する有望特許の探索は重要になる」とし、既に評価手法を開発して実績を上げている。

工藤一郎国際特許事務所の工藤一郎弁理士は特許の独占排他力を評価する「YKS手法」と「特許競争力指標YK値」を19年から提供してきた。コーポレートガバナンス・コード改訂以降、各業種や技術分野における企業競争力を、YK値を基にした格付け情報で表す企業が増えているという。工藤氏は「財務情報を第三者である会計士が監査するのと同様、企業が開示する知財競争力などの情報を誰が第三者として評価するのか。その任に一番近いのは弁理士ではないか」といい、弁理士の新しい役割になっていく可能性を示唆した。(中岡浩)

なかおか・ひろし 法大法卒。金融専門紙記者、金融技術の研究を行う財団法人などを経て、知的財産に関する国内最大の専門見本市「特許・情報フェア&コンファレンス」の企画や、知財に関する企業取材に従事。ジャーナリスト。高知県出身。

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