「エアドロ痴漢」 スマホ1つで痴漢に遭う可能性?

スマートフォン1つで行われる痴漢がある。周囲の不特定多数のスマホ端末にデータを送受信できる米アップル社の通信機能「AirDrop(エアドロップ)」を悪用し、卑わいな画像や動画を送りつける「エアドロップ(エアドロ)痴漢」だ。女性の困惑する姿をのぞき見ることなどが狙いで、数年前から被害が表面化。従来の痴漢と異なり、スマホの操作という自然なそぶりでできることから犯人の特定は難しいとされ、捜査関係者は端末の設定変更といった防衛策を呼び掛けている。

8月12日夕、学生や仕事帰りの会社員らでにぎわう京都市南区のマクドナルド店内。友人と談笑していた高校の女子生徒のスマホ画面に、突如エアドロップの通知が表示された。

《辞退》《受け入れる》-。女子生徒は反射的に《受け入れる》を選択し、画面を確認すると、そこには店の女子トイレで用を足す別の女性を、頭上から盗撮した動画が写っていた。女子生徒は京都府警に相談。府警は9月7日、府迷惑行為防止条例違反(卑わいな行為の禁止)と建造物侵入の疑いで、京都市の大学生の男(20)を逮捕した。男は盗撮した動画を同じ店内にいたであろう本人に送りつけて「脅そうとした」と動機を供述した。

卑わいな画像が不特定多数にばらまかれる被害はネットの普及とともに拡大。現在では交流サイト(SNS)上に投稿したり、メールで送りつけたりするのが主な手口だ。こうした犯行形態では投稿履歴などが摘発への糸口となるが、エアドロ痴漢の場合は様相が異なる。

今回の事件は発生から1カ月以内で逮捕までこぎつけたが、これはレアケースと捜査関係者。「エアドロ痴漢の犯人を特定するのには、高いハードルがある」と指摘する。

たとえばエアドロ痴漢と同じように、相手の反応を見るのが狙いの露出犯罪の場合は、犯人は目の前におり、さらに周囲の防犯カメラにとらえられている可能性もある。

一方のエアドロ痴漢は、下を向いてスマホを操作するだけ。画像を共有するにあたってもサーバーを介さないため、データ通信の履歴をたどるのは困難だ。

今回は、容疑者への別の住居侵入事件での捜査の過程でスマホから発見された動画と、女子生徒が受信した動画が一致したことで再逮捕に至った。いずれの事件も同じ署の管轄だったことから結びついたが「別の署の管轄だったら追跡しきれなかったかもしれない」(捜査関係者)という。

エアドロ痴漢はこれまでも電車内で犯行に及んだとして大阪や兵庫で摘発事例があるが、不特定多数に送信できるだけに、どれだけの被害者がいるかは正確には把握しきれない。

もっとも、受信被害を防ぐ方法はある。エアドロップの受信先の選択肢は《受信しない》《連絡先のみ》《すべての人》の3つのみのため、設定変更をすれば不特定多数からの受信は防止できる。

また、エアドロップで画像を共有する前段階で、周囲の不特定多数のスマホに表示される自身の端末の名称についても、個人情報が特定されにくいよう設定することが重要で、捜査関係者は「無制限に画像を受信しないように設定を変え、自分の身を守ってほしい」と話す。

デジタルタトゥーの危険性

SNSの普及に伴い、卑猥な画像や動画はインターネット上に無数に散乱し、不特定多数の目にさらされている。エアドロ痴漢のようにわいせつ画像を見せられる被害のほかに、自身の盗撮画像をネット空間にばらまかれたり、かつての交際相手による「リベンジポルノ」で意図的に流出させられたりと、被害に遭うリスクは至るところに存在する。

リベンジポルノなどに適用される私事性的画像被害防止法違反容疑の全国の摘発件数は、昨年が47件と平成28年(48件)からほぼ横ばいで推移しているが、相談件数は昨年が1628件で28年(1063件)から1・5倍も増加している。

京都府警によると、府内の摘発件数は昨年は1件のみ。一見少ないが、相談件数は大阪や東京を上回る全国最多の157件に上り、平成29年(42件)から5年間で3倍以上増えた。府警の担当者は「泣き寝入りしているであろう人も多く、被害に遭っている人は相談件数の何倍もいるかもしれない」と推察する。

SNSは誰でも閲覧することができ、拡散速度も速い。ネット上に一度投稿されると、保存や複製が出回って完全に削除することは難しい。消すことができないという意味で「デジタルタトゥー」とも呼ばれ、永遠に被害が続く恐れをはらんでいる。

警察関係者は「SNS上に一度流出すると気づかないうちに拡散されてしまう。安易に撮影させないよう気を付けてほしい」としている。(鈴木文也、木下倫太朗)

エアドロップ 近距離無線通信を利用し、半径10㍍程度の距離にある米アップル社のiPhone(アイフォーン)やiPad(アイパッド)などの端末同士で、画像や動画などのデータを送受信して共有する機能。送信側は端末画面に表示される通信圏内の端末の「名前」リストから送信先を選ぶ。一般的には、スマートフォンのカメラで撮影した集合写真をその場で仲間と一斉に共有することなどに使われる。


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