小林繁伝

王お待たせ700号…ずぶ濡れで黙々と打ち込んだ 虎番疾風録其の四(105)

巨人の王(中央)が通算700号を達成し、ナインに出迎えられる=昭和51年7月23日、川崎球場
巨人の王(中央)が通算700号を達成し、ナインに出迎えられる=昭和51年7月23日、川崎球場

昭和51年7月23日、後半戦の幕が開いた。巨人は川崎球場での大洋16回戦に臨んだ。スタンドの2万5000人の観衆は、八回に回ってきた王の4度目の打席に注目していた。ここまで巨人打線が大爆発。13安打を放ち8―0と大きくリード。ただ、野手の中で「通算700号」にあと1本と迫っていた王だけがノーヒット。


◇7月23日 川崎球場

巨人 062 000 020=10

大洋 000 000 002=2

(勝)加藤8勝3敗5S 〔敗〕平松7勝10敗2S

(本)王(33)(鵜沢)清水①(加藤)


八回、無死一塁に張本を置いて4度目の打席。「今度こそ、打ってください」と大洋の捕手福嶋が小声でささやく。福嶋は王が打席に入るたびに「打って…」と声をかけていた。王は何も言わない。ところが、この八回は「ようし」と応えたという。それはホームランを打ちたい―の気持ちからではない。猛打のチームの中でただ一人、ヒットを打っていない自分が許せなかったのだ。その初球だ。

鵜沢が投げたフォークボールが真ん中へ。快音を発した打球は右中間スタンドの照明塔の脚に当たってグラウンドへ跳ね返った。

万感の思いを胸にベースを1周。選手たちが三塁線脇に並び、ホームベースでは長嶋監督が王を出迎えた。7月2日の名古屋を振り出しに北海道―九州と日本列島を縦断した〝700号の旅〟。

「早く打って―という周囲の気持ちがヒシヒシと感じられるだけに、無意識に〝打ち〟にいっていた。知らず知らずのうちにホームランを狙うバッティングになっていたんだね」

そんな自分を見つめ直した。球宴2戦目と3戦目の間の移動日。王は雨が降る多摩川グラウンドに姿をみせた。

「今のボクは家でのんびりしている場合じゃないです。打たせてもらいます」

王は黙々と打ち込んだ。ずぶ濡れになりながら休みなしで約40分、180球。そして「自分なりの解答はつかんだよ」と言って王は笑顔でバットを置いた。

グラウンドに跳ね返ったボールは、福井線審が拾って国松コーチに。そして末次たちを経由して王に手渡された。(敬称略)

■小林繁伝106

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