名門パリ・オペラ座バレエ団に首席入団 期待の新星は日仏ハーフ ムーセーニュ・クララさん(18)

パリ・オペラ座バレエ団のムーセーニュ・クララさん(関勝行撮影)
パリ・オペラ座バレエ団のムーセーニュ・クララさん(関勝行撮影)

名門パリ・オペラ座バレエ団入団以来、抜擢(ばってき)が続き、今後の活躍が期待されているムーセーニュ・クララさん(18)。今夏、母の母国である日本で、初めてプロのダンサーとして気品あふれる踊りを披露、日本のバレエファンに存在を印象付けた。コロナ禍で思うように踊れなかった日々を経て今、「踊れるだけで幸せ。私にはダンスが必要なんです」とこぼれるような笑顔を見せた。

生まれる前から〝音楽漬け〟

クララさんは2004年、パリ生まれ。フランス人医師の父と母、貴子さんの間に生まれ、「母のおなかの中から、音楽を聴いていました」と、環境に感謝する。3人姉妹の末っ子で、現在はバイオリニストとして活躍する12歳上の長姉と、10歳上で今は弁護士の次姉が奏でるチェロやハープが、日常的に響く家庭に育った。足元がおぼつかない幼少時から、音楽に合わせて動き始め、「曲が止まると泣き顏になり、動きが固まってしまう子」と貴子さんは振り返った。

5歳時に一家で英国移住すると、「ロイヤル・アカデミー・オブ・ダンス」に入学。クララさんは「幼いながら、『これだ!』と確信しました。振りの通りに踊るだけでなく、全身を使って表現する心を育んでくれた」と話す。一方で、「自身のルーツを大切にしてほしい」という貴子さんの希望で、日本人学校にも通い、日本語習得にも励んだ。

コロナ禍で公演中止 涙止まらず

フランスに戻った9歳の時、周囲の勧めもあって、名門パリ・オペラ座バレエ学校を受験し見事パス。「家に帰ると寝るだけ」というくらいバレエにのめり込み、世界最古のバレエ団の高度な技術と気品あるスタイルを、基礎から徹底的に体にたたき込まれた。13歳で「ダンス組曲」に主演するなど、同校で次々と最年少記録も塗り替える。

しかしコロナ禍と、キャリア形成に重要な時期が重なる。2020年4月、同校は休校。当時15歳のクララさんはこの年、卒業公演「コッペリア」の主役を、バレエ団の本拠地ガルニエ宮で全幕、踊る予定だった。

パリ・オペラ座バレエ学校の卒業公演のためあつらえた「コッペリア」の衣装を着て、新国立劇場で踊ったムーセーニュ・クララさん(鹿摩隆司撮影)
パリ・オペラ座バレエ学校の卒業公演のためあつらえた「コッペリア」の衣装を着て、新国立劇場で踊ったムーセーニュ・クララさん(鹿摩隆司撮影)

「私の体に合わせて衣装もすべて新調され、舞台映像も世界配信予定でした。必死にリハーサルしてきたのに公演中止が決まり、涙が止まりませんでした。未来を消しゴムで消された思いがしました」

校内での非公開舞台となり、バレエ団入団試験も延期に。先が見通せない日々も、家族に支えられ、自宅トレーニングを続けた。2020年10月、4カ月遅れで入団試験に臨んだが、思う存分、踊れるだけで楽しくてたまらなかったという。

「私は舞台が大好きなんだ、と実感しました。踊れなかったストレス、エネルギーを3分間にすべて注ぎ込みました。うれしくて、試験の緊張なんて吹っ飛びました」

結果は首席入団。若手ダンサーに贈られるジュヌ・エスポワール賞も受賞した。オペラ座はダンサーの階級が厳格で、最高位ダンサー「エトワール(フランス語で「星」の意味)」を頂点に5階級ある。入団が許されると、群舞からスタートするが、クララさんは1年目からソロで踊る機会に恵まれ、翌2021年には、17歳で早くも「コリフェ」(上から4番目)へ昇格を果たした。「とにかく本番の舞台が大好き。音楽と一体になって踊る喜び、それをお客さんと分かち合えたら幸せ」

日本で衣装もお披露目できた「コッペリア」

今年8月、クララさんは海外で活躍する日本人バレエダンサーが集結する東京・新国立劇場の「バレエ・アステラス2022」に出演した。これまでは夏休みに来日し、バレエのワークショップやコンクールに出場したが、プロのダンサーとして踊るのは初めて。2日間の公演で、「コッペリア」と「サタネラ」のパ・ド・ドゥ(男女2人の踊り)を披露。「コッペリア」では卒業公演でお披露目するはずだった衣装を着た。

「サタネラ」を踊るムーセーニュ・クララさん(鹿摩隆司撮影)
「サタネラ」を踊るムーセーニュ・クララさん(鹿摩隆司撮影)

「やっと衣装に命を吹き込めた気がします。通常、衣装の外部持ち出しはできませんが、特別に認められました。実はこの衣装、日本人の寄付で作られた物で、日本での門出の舞台で着て踊れ、本当にうれしかった」

難度の高い技術も軽やかに見せ、結婚の喜びにあふれるヒロインになり切り、存在感をアピールした。

「役として生き、成長できるダンサーに」

9月からオペラ座での新シーズンがスタート。通常に戻りつつあるバレエ団で夢は広がっている。

「『白鳥の湖』『くるみ割り人形』などの古典は全部踊りたいし、新作にも挑戦したい。目指すのは、舞台上で役として生き、役を成長させられるダンサー。40歳を過ぎて(十代の)ジュリエットを踊っても、若い時より深く表現できるダンサーになりたい」

バレエ漬けの毎日が続くが、息抜きは大好きな家族と愛犬との時間。「オペラ座入団後、バレエ団の近くに一人暮らし用のアパートを用意したのですが、1日で〝里帰り〟してしまいました。今は姉が暮らしています」。音楽だけでなく、愛情もたっぷり浴びて育った、若竹のような勢いがまぶしい18歳。伸び盛りの新星の今後に、日本から注目したい。(飯塚友子)

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