連載4日目で、列車はまだ上野駅を通過したばかり。左手に都心を目指す京浜東北線の満員電車がちらりと見え、しばしの優越感にひたる。
こんな調子で稚内まで行き着くのかしら、とご心配の向きもあろうが、「はやぶさ」は、これからどんどんスピードアップするので大丈夫。
まずは、グランクラスで供された軽食の中身を紹介しよう。 漆黒の紙箱を開けてみれば、合鴨(あいがも)がでんと鎮座し、目にも鮮やかな緑のわけぎと黄色のとろとろ卵が目に飛び込んできた。
隣はと見れば、脇役は任せろとばかりに茄子(なす)のしぎ焼きと、ウナギのかば焼きが一口サイズながらも自己主張している。さすが、和食の名店「分とく山」監修だけのことはある。
ならば、酒も心して選ばなければならない。とりあえずビールで、とは参らぬ。
しばし熟考の上、山形県東置賜郡の高畠ワイナリーからやってきた「嘉―yoshi―スパークリングシャルドネ」を選択した。
これが大正解。「嘉」はさわやかなスパークリングワインで、朝の空気にピッタリ。合鴨ともウナギとも他の脇役たちとも相性ピッタリ。あっという間に飲み干してしまった。
かつては、本場欧州だけでなく、カリフォルニアにも遠く及ばなかった日本ワインの向上は、日々目覚ましい。
二杯目を頼む前に、珈琲で一服。黒い液体が入ったグランクラスのロゴマーク入りグラスもおしゃれだ。
外は曇り。いつの間にか、白河の関を越え、雲に隠れた蔵王を左手に想像しながらウイスキーのオールドパーを所望する。
もちろん、メード・イン・ジャパンのウイスキーは最高だが、スコットランド産ならオールドパーだろう。
何しろ、あの田中角栄の大好物だった。ロッキード事件で刑事被告人となり、子分の竹下登に裏切られた晩年は、朝からオールドパーを浴びるほど飲み、ついには倒れてしまう。
パーのお供は、角栄を生んだ新潟県産の柿の種。これまたよく合う。もし角栄なかりせば、新潟まで新幹線が開通するのは、だいぶ遅くなった、いやいまだにできていなかったかもしれない。佐賀県のように。
と、酔いでとりとめもない妄想を膨らましていると、というか、うつらうつらしていると、もう盛岡だ。ここまでわずか2時間10分。さすが最高時速320キロだけはある。
しかも晴れている。標高2038メートルの岩手山がくっきりと車窓から眺められた。
他社の記者仲間が、若いころ盛岡を訪ねて、岩手山と街の美しさに酔いしれ、定年後は、ここに住もうと心に誓ったという。実現しなかったが。
さあ、急がねば。締めの三杯目はやはり、日本酒でなくてはならない。出されたのは、宮城の名門、仙台伊沢家勝山酒造の「勝山 純米吟醸 献」だ。
吟醸酒らしい華やかな香りに包まれた一杯は、芳醇そのもの。東北の旅にふさわしい。
ちなみにグランクラスでは、銘柄は限られているものの、赤白ワイン、日本酒、ウイスキー、緑茶、コーヒー、紅茶などが飲み放題なのである(くれぐれも飲み過ぎにご注意を)。
もう一つ、少し残念な報告をしなければならないが、それはまた明日のこころだぁ‼(乾正人)