主張

首相の所信表明 国難の危機感伝わらない

臨時国会が召集され、岸田文雄首相は参院選後初となる所信表明演説を行った。折しも岸田政権は4日で発足から丸1年を迎える。

首相は「『厳しい意見を聞く』姿勢」にこそ自身の原点があると強調した。だが、首相に欠けるのは発信力である。「国難」に直面しているとの認識を示したが、その克服に向けた気概が伝わってこない。

ウクライナ情勢は悪化の一途をたどり、北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国は台湾併吞(へいどん)をにらんで軍事的圧力を強め、尖閣諸島(沖縄県)を狙っている。南西諸島方面の防衛体制の強化がますます重要になっていることは論をまたない。

首相はロシアの軍事侵略や北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題に言及する一方で、中国については国交正常化50周年には触れても、名指しで覇権主義的な行動を問題視することはなかった。これでは国民に危機感は伝わらない。

国家安全保障戦略などの改定や防衛力の抜本的強化策が問われている。安保環境に対する認識を明確に語り、説得力をもって抑止力と対処力を強化する必要性を訴えなければならない。

憲法改正については「これまで以上に積極的な議論が行われることを期待する」と述べた。先の通常国会では9条に関し、活発な議論が展開された。「期待する」のではなく、改憲の意義を自ら国民に語りかけてほしい。

演説は経済対策に多くの時間を割き、「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」を重点分野にする考えを表明した。高騰が予想される電気料金については「前例のない、思い切った対策を講じる」と述べた。苦境に陥っている家庭や企業に対し、確実に支援が行き届くことが大切だ。

臨時国会には、医療提供体制の確保策を盛り込んだ感染症法改正案や、衆院選挙区定数「10増10減」を反映した公選法改正案も提出される。議論すべき案件はめじろ押しである。

立憲民主党などの野党は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題で攻勢を強めている。自民党は対応が後手に回り、積極的に問題を解明しようとする姿勢に欠ける。国民の信を失えば、政治は進まない。首相はもっと指導力を発揮すべきだ。

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