ガソリン高騰も「低価格」のしわ寄せ セルフ式GSの危ない事情

原油価格の高騰でガソリンスタンド(GS)の価格競争が続く中、車のドライバーが自ら給油を行うセルフサービス式GSが増えている。従業員を減らせる分、販売価格を抑えられるのが理由だが、一部の店舗ではさらに人件費を抑えるため、常駐が義務付けられている危険物の取り扱いに必要な国家資格所有者を配置せずに営業するケースが発覚している。無資格のアルバイトだけで営業する時間帯が生じており、重大な事故や凶悪な事件につながるリスクが高まっている。

「深夜はバイトだけ」

「どこにあるかは分からないけど、自宅を探したらあります」

9月下旬の夜、兵庫県内のセルフ式GS。1人で勤務していた男性アルバイトは「危険物取扱者」の免状について尋ねた記者にそう言い残し、足早に待合室へと戻っていった。

危険物取扱者は、ガソリンや石油などの引火しやすい危険物を扱うことができる国家資格。「甲」「乙」「丙」の3段階に分かれており、消防法では無資格のドライバーらが給油する場合は「甲」または「乙」の所有者が監視しなければならないと定めている。

セルフ式GSは一見すると無人に見えても、別室の危険物取扱者がカメラなどでドライバーの様子を確認し、「給油許可」のスイッチを押さなければ給油できない仕組みをとっている。

ただ、客からはその仕組みも、危険物取扱者の有無も分からない。冒頭のGSで過去にアルバイトをしていた男性は「深夜は無資格のアルバイトしかいなかった」と明かす。

マニュアルで危機管理

男性が理由として挙げたのが人件費だ。「会社も危険物取扱者がいないといけないのは分かっているが、資格を持っていれば給料が高くなる」。誘導や清掃などのサービスを削り、価格で勝負するセルフ式GSにとって人件費の抑制は死活問題だ。深夜帯はさらに手当が上乗せされる半面、客は少なく、無資格のアルバイトだけでの営業が常態化していたという。

その時間帯に消防が抜き打ちで検査に入ったり、何らかの事情で客から免状の提示を求められたりすることもある。カード型の免状は顔写真入りで、他人が使うことはできない。

「そういう場合は『一時的に外出している』と説明して、その間に近くに住む資格を持つスタッフを呼び出すことになっていた」。深夜に勤務するアルバイトには、窮地を切り抜けるこうした対応マニュアルが言い含められていたという。

危険物取扱者の勤務状況は消防が立ち入り検査で定期的に確認することになっているが、検査方法は各消防に委ねられている。3年に一度のペースで立ち入り検査を行う大阪市消防局は口頭での確認のみ。担当者は「噓をつかれたらどうしようもない」と漏らす。

セルフ20年で8倍

セルフ式GSは平成10年の消防法改正で、危険物取扱者にしかできなかった給油が、ドライバーにも可能となったことで誕生した。低価格を売りに人気を集め、スタッフが給油や清掃などを行うフルサービス式から次々に切り替わっていった。日本エネルギー経済研究所石油情報センターのまとめによると、13年度は1353店だったのが、令和3年度は1万608店にまで増加。全体の37%を占めている。

セルフ式GSは24時間営業の店が多く、深夜や早朝の危険物取扱者の不在はしばしば指摘されている。神戸市消防局では定期的な立ち入り検査のほか、市民らから通報があった場合などに抜き打ちでの夜間検査を実施。昨年度も通報に基づく検査で不在が確認された1店に改善指導を行った。そのほかの自治体でも毎年のように発覚しており、不正な営業が横行している可能性が高い。

価格競争の激化でさらにセルフ式GSが増加する可能性もある中、危険物取扱者の不在によるリスクは看過できない。給油中のガソリン漏出や事故は重大な火災につながりかねず、セルフ式GSでは禁止されている携行缶などへの給油が見過ごされれば、凶悪事件につながるリスクも高まる。ある警察関係者は「常駐しているかどうかはもちろん、きちんと監視しているのか確認することも重要だ。立ち入り検査の強化を検討すべきだ」と指摘している。(中井芳野)

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