小林繁伝

首位陥落…長嶋監督が命じた「真夏の特訓」 虎番疾風録其の四(103)

前半戦を2位でターン。厳しい表情を浮かべる巨人の長嶋監督(左)と杉下投手コーチ=昭和51年7月15日、熊本・藤崎台球場
前半戦を2位でターン。厳しい表情を浮かべる巨人の長嶋監督(左)と杉下投手コーチ=昭和51年7月15日、熊本・藤崎台球場

巨人に肉薄した阪神は翌7月15日の大洋戦(甲子園)も11―6で快勝。ゲーリーの2ランなどで三回までに4点のリードを奪われたが、田淵の2試合連続アーチで反撃開始。東田の決勝本塁打など16長短打で11点を奪った。

一方、巨人は投打がうまくかみ合わない。評論家の牧野茂は6月の段階で「14連勝の反動が怖い。疲れが見え始めている。思い切った〝休養策〟が必要だ」と警告していた。長嶋監督も百も承知。だが、そんな余裕はなかった。

7月3日の中日戦(ナゴヤ)で「通算699号」を放った王のバットからも快音が消えた。背筋痛の再発や阪神との〝7月決戦〟が3試合雨で流れたことも、王のリズムを微妙に狂わせていた。

14日(鹿児島)、15日(熊本)の対ヤクルト九州遠征。長嶋監督は「少しでも打席が回るように」と「3番」の張本と打順を入れ替えたが鹿児島では4打数ノーヒット。


◇7月15日 熊本・藤崎台県営球場

ヤクルト 000 210 000=3

巨 人 000 000 010=1

(勝)安田6勝9敗1S 〔敗〕ライト4勝2敗


熊本でもヤクルトの先発安田の巧みな投球の前にノーヒット。6試合もホームランが出ない。

「久しぶりの試合で力みかえり、ボールから目が離れてしまった」と王は唇をかんだ。チームも3安打1得点に抑え込まれて連敗。とうとう64日ぶりに阪神に「首位」の座を明け渡した。

この時点で阪神は38勝20敗8分けの勝率・655。巨人は44勝24敗3分けの・647。ゲーム差では巨人が「1ゲーム」上だが、阪神の引き分け数が多く、勝率では阪神の方が上。マイナス1ゲーム差の「首位」というわけだ。

悔しい2位Uターン。長嶋監督は「一にも二にも練習あるのみ。投手陣も野手陣も多摩川に集合です」と力を込めた。

その日の深夜、熊本の宿舎で緊急ミーティングが行われた。テーマは18日から22日まで東京・多摩川グラウンドで行われる「真夏の特訓」。

長嶋監督は選手たちに向かった。

「チャレンジャー精神をもう一度呼び起こすため、ただの練習ではなく、宮崎キャンプ当時の気持ちになって、走り、打ち、投げよう。いいか!」

「おおぉぅ!」

小林も皆と一緒に腹の底から雄叫びをあげた。(敬称略)

■小林繁伝104

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