令和阿房列車で行こう 鉄道開通150年記念

第一列車 稚内行<3>「軽食は?」召し上がりますとも

百閒先生も乗った「マイテ49形客車」。ただしマイテ49は「つばめ」ではなく「はと」に使われた
百閒先生も乗った「マイテ49形客車」。ただしマイテ49は「つばめ」ではなく「はと」に使われた

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なぜ、グランクラスが、酒吞(の)みにとって天国なのか。

それをお知らせするまでには、たっぷりと時間がある。

9月15日、乗車する「はやぶさ7号」は午前8時20分の発車なのに、40分も前に東京駅に着いてしまったのだ。

働く時間が惜しくて、いつもは会議の5分前にしか出社しないのに、我ながら小学生の遠足のようだ。これも還暦効果か。普通なら駅ナカの店舗で、じっくり駅弁を選ぶところだが、午前8時前とあってほとんどの店が閉まっている。しかもグランクラスでは、軽食が出るので朝は、駅弁を買う必要がない(昼でも思案するところだ)。

すぐ新幹線ホームの待合室へ行ってもいいが、それでは旅慣れないオジサンだ。

「はやぶさ7号」は8時7分、21番線に入線するが、仙台発東京行き「はやぶさ2号」の折り返し運用(車内清掃に時間がかかる)なので、3分ほど前にしか車内に入れない。

内田百閒先生は、特急にしても急行にしても出発時間のはるか前に東京駅の歩廊に着き、先頭の電気機関車からゆっくり1両ずつ見分し、最後部の一等車に乗り込むのを常としていたが、令和阿房列車でそんな悠長なことをしていたら確実に乗り遅れてしまう。

目の前にご馳走(ちそう)をぶら下げられて車内に入れないのは、人倫に反する。というわけで、コーヒーでも飲もうと駅構内をぶらり散策したのだが、わずかに開いていた店は、どこも通勤・ビジネス客でいっぱい。旅立ちの昂(たか)ぶりを静めてくれる場所がない。

ビューゴールドプラスカードを持っていれば、八重洲口にラウンジがあるのだが、午前8時からで、しかもゴールドカードを持ち合わせていない(持っていても使えるのは、原則グリーン車利用客のみ)。

朝から文句を言っても始まらないので、21番ホームへ。

JR東日本の新幹線ホームは、2面4ホームしかない。その4つのホームに東北・山形・秋田・北海道・上越・北陸の6新幹線がとっかえ、ひっかえやってきては、最短12分で折り返して発車する。

先ほど、車内清掃に時間がかかる、と書いたが、清掃員さんたちの手際は素晴らしく、たった7分間でゴミを拾い、窓を拭き、シートを転換してモップもかける。神業と言っても過言ではないが、その7分間さえもどかしい。掃除は(するのではなく、されるのは)大好きなのだが、もうそのあたりでいいですよ、と声をかけたくなった。

ようやく待ちに待った扉が静かに開き、アテンダントのお姉さんに笑顔で招じ入れられた。

二人掛け座席の窓際で、本革シートの具合も申し分ない。

もし通路側に妙齢の女性が座れば、「窓際と代わりましょうか」と紳士然と申し出る腹づもりだったが、杞憂(きゆう)に終わった。後で聞くと、乗車時はコロナ対策のため3分の2程度しか発券していなかったのだとか。みどりの窓口氏が「良かったですね」と言った意味がようやく分かった。早く言ってよ。

定時に出発した「はやぶさ」はあっという間に上野を通過し、アテンダントが「軽食は召し上がりますか」と尋ねる。

召し上がりますとも。そのために朝食を抜いたのだから。

さて、それにどんな酒をあわせるか。続きはまた明日‼(乾正人)

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