小林繁伝

7月の猛虎逆襲…気迫の一撃で長嶋巨人に迫る 虎番疾風録其の四(102)

サヨナラ本塁打を放ち、祝福を受ける阪神の池田祥浩(右)=昭和51年7月14日、甲子園球場
サヨナラ本塁打を放ち、祝福を受ける阪神の池田祥浩(右)=昭和51年7月14日、甲子園球場

昭和51年シーズン、球宴までの最大の注目は7月10日から後楽園球場で始まる〝7月決戦〟。首位巨人とゲーム差「3・5」で追う2位阪神との3連戦。下馬評では「猛虎有利」と言われていた。

ここまで両者の対戦成績は巨人の6勝4敗1分け。直接対決でのチーム打率は阪神が・297、巨人が・281。本塁打数も阪神19本に巨人18本と阪神が上回った。猛虎有利―の最大の理由は王の負傷だった。通算本塁打「700号」達成を目前にして、昨年痛めた広背筋の痛みが再発したのである。

ここで一気に巨人を叩き「首位」を奪回したい阪神。だが、勝利の女神はなんと3日間雨を降らせ、3試合が中止になってしまったのである。

甲子園に戻った阪神は7月13日の大洋戦に5―4で競り勝ち、試合のなかった巨人と3ゲーム差。そして―。


◇7月14日 甲子園球場

大洋 000 200 000=2

阪神 010 001 003x=5

(勝)谷村7勝3敗 〔敗〕奥江7勝9敗2S

(本)田淵⑯(高橋)池田②(奥江)


六回に田淵の16号本塁打が飛び出し、同点で九回を迎えた。田淵、掛布の四球で1死一、二塁のチャンス。ここで代打遠井の当たりは痛烈な右翼ライナー。スタンドから大きなため息が漏れた。

「延長か…」。そんな空気を吹き飛ばす快音が響いた。続く池田の当たりは右翼ラッキーゾーンへ飛び込むサヨナラホームラン。阪神ベンチは空っぽ。スタンドは総立ちだ。

「バ、バットの先っぽだったんで、入るとは思わなかった。この前、東京で監督から〝もう一歩前に出ろ〟と言われたんです。その言葉が頭にありました」と池田は喜びで声を上ずらせた。

雨で流れた先の東京遠征(巨人戦)のときだ。吉田監督は投手陣、野手陣に分けて2日間「食事会」を持った。そのとき池田にこう言ったという。

「お前は外野フライを追うとき、ワンバウンドで捕ってホームへいい球を投げようとする。それよりも、ノーバウンドで捕るという気迫の方が大事なんやで。もう一歩前に出ろ」

それは単に外野手の技術の話ではなく、プロ野球人としての池田の生き方へのアドバイスだった。

巨人が鹿児島でのヤクルト戦に敗れ、2ゲーム差。いや、勝率で巨人・657、阪神・649。猛虎が「8厘差」に肉薄したのである。(敬称略)

■小林繁伝103

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