令和阿房列車で行こう 鉄道開通150年記念

第一列車 稚内行<2>グランクラスはこの世の天国

「はやぶさ」のグランクラス。意外にも混んでいた
「はやぶさ」のグランクラス。意外にも混んでいた

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我が敬愛する内田百閒先生は一等車を偏愛した、とは前回書いたが、料金はべらぼうに高かった。

当時、客車の等級は一等から三等(現在の普通車)まであり、一等料金は三等の3倍もした。新幹線の普通車で東京から新大阪まで行けば、片道1万4720円(通常期)だから、一等で往復すれば、今の感覚なら9万円近くかかる勘定になる。

当時の一等車マイテ39は、今や車齢92歳。さいたま市の鉄道博物館に保存されているが、外国人観光客を意識した「桃山式」と呼ばれる和風のぜいたくな造りで、「3倍」の価値はある。その姉妹車両であるマイテ49も京都鉄道博物館での保存が決まったそうで、喜ばしい。ぜひ一度ご覧いただきたい。

実際の百閒先生は、帰りに二等車を使って経費を浮かせたが、大阪で旅館に泊まり、酒をしこたま召されたので10万円超(もちろん現在の貨幣価値)、お供の「ヒマラヤ山系」君の分も合わせると、正味1日半汽車に乗り、酒を吞(の)んだだけで20万円以上かかった計算になる。

この旅費を百閒先生は、お得意の錬金術で用立てるのだが、その話は追々(おいおい)するとして。

さて、現代の一等車ともいえるグランクラスに乗って東京から新函館北斗まで行けば、いくらかかるのか。

距離は新大阪までの約1・5倍だから普通車でも2万3430円する。昔の一等車なら約7万円かかるところだが、グランクラスなら3万9320円。飛行機の普通料金より少し高い。

というわけで、函館まで行くなら、日本最北端の駅・稚内まで足を延ばそう。

朝早く東京を発(た)てば、飛行機に乗らなくてもその日のうちに稚内に着けるのだが、札幌以北は夜になるので、景色が見られず、もったいない。

札幌で1泊して、翌日早朝の特急「宗谷」に乗ることにしてまずは、グランクラスの指定券をとろう。

百閒先生は、午後0時半東京発の特急「はと」に乗るために当日朝、切符を買おうとしたら満席で、慌てて駅長室に駆け込み、事なきを得たのだが、その轍(てつ)は踏むまい。

東日本大震災の直前、E5系「はやぶさ」に登場したグランクラスは、本革シートの1人席と2人席の1列3席、計18席しか席がないが、平日の木曜日なら大丈夫だろう。外国人観光客はまだ少ないし、新型コロナウイルス禍も第7波真っただ中だしと、タカをくくっていたら、アニハカランや。

2日前に新宿駅みどりの窓口へ出向くと、「良かったですね。あと2席あります」と言われ、世の中には暇人が多いもんだと驚いた(自分のことは棚に上げて)。

いずれにしても9月某日、午前8時20分東京発、はやぶさ7号10号車5Cの指定席が手に入った。

あとは寝過ごさないだけだ。前日は、「出発前に一杯奢(おご)るよ」という湯布院兄貴の甘いささやきを断固として断り、さっさと家に帰った。

何しろグランクラスは、酒吞みにとっても「この世の天国」なのである。前夜に安酒を吞んで二日酔いで乗り込んでは、絶対にいけない。なぜ、天国なんだって? それは明日、詳しくお知らせします。(乾正人)

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