正論11月号

チャイナ監視台「台湾防衛に私財投じた大富豪」 産経新聞台北支局長 矢板明夫

台湾の離島、金門島で警戒に当たる台湾軍兵士ら=6日(中央通信社=共同)
台湾の離島、金門島で警戒に当たる台湾軍兵士ら=6日(中央通信社=共同)

※この記事は、月刊「正論11月号」から転載しました。ご購入はこちらをクリック

いま台湾では、以前は親中派とみられていた大物財界人が台湾を防衛するため私財を投じると表明して非常に注目されています。

台湾の半導体大手、聯華電子(UMC)の創業者で名誉会長の曹興誠氏(一九四七年生まれ)は二〇〇〇年代初めから中国本土への投資を始めました。当時は独立志向が強い民進党の陳水扁総統の時代で、台湾政府とUMCの間には緊張関係がありました。

曹氏は当時「中台統一をすべきか否かを問う住民投票を台湾で実施すべきだ」と主張する新聞広告を出すなど完全に「親中派」で、中国に近い国民党のスポンサー的存在だとみられていた人物です。

曹氏は早々に経営の一線から退き、仏教の研究をしたり骨董品の収集をしたりという引退生活を送っていました。明~清の時代の骨董品については世界的コレクターとされていましたが、二〇〇八年の四川大地震の際には貴重な収集品を競売にかけて、その売り上げで中国に多額の支援金を送っています。また、一時は台湾国籍を捨ててシンガポール国籍を取得し「節税のためではないか」と台湾人のひんしゅくを買っていた、そんな人でした。

その曹興誠氏が今年に入って急に「中国の侵略に抵抗しなければいけない」などと公言し始めたのです。そうした中でペロシ米下院議長の訪台後、八月四日から中国軍が台湾周辺にミサイルを撃ち込むなど大規模な軍事演習を始めました。すると翌五日、曹氏は記者会見を開き、「中国共産党はヤクザの集団だ。中国との統一は、台湾が反社会勢力になることを意味する」と中国を痛烈に批判しました。以前の立場を百八十度、転換したのです。

さらに台湾を守るため私財三十億台湾元(約百三十五億円)を、特に中国の浸透作戦(フェイクニュースの流布など)に対抗するために使うと表明したのです。これは国への寄付という形ではなく、民間から各種プロジェクトの提案を受けて、それに私財を拠出するという話でした。中国による直接・間接の侵略に抵抗する意志と手段を台湾は持たねばならない、と発言したのです。

曹氏は中国が香港の民主派デモを弾圧し一国二制度を事実上、踏み潰した二〇一九年夏に、曹氏は香港に滞在していたそうです。このとき、香港の反中国デモを警察が弾圧し、中国当局に雇われた黒シャツ姿のヤクザが市民に暴行を振るい、数十人が負傷しました。また曹氏の友人である蘋果日報の創業者・黎智英氏も逮捕されてしまった。それで「もう共産党政権など信用できない」と、曹氏は究極的に目覚めたというわけです。

台湾政府は、あまり中国を刺激しないようにと気をつかって、中国の挑発に対しても「台湾の皆さん、落ち着いてください。政府はきちんと機能し、事態に対処しています」としか言いません。今回の軍事演習に対しても蔡英文政権は同様の対応をしており、これが台湾人の国防意識を弱めている側面もあります。そうした中で曹氏は「民間人として声を上げなければならない」と訴えました。

防弾チョッキでテレビ出演

曹氏の記者会見は大変な反響を呼び、国防プロジェクトの提案や相談が殺到しました。一方で親中派勢力から、ネットでさまざまな脅迫もあったそうです。その後、曹氏は台湾のテレビに出演する際に防弾チョッキを着用するようになりました。これは自身の安全を確保するとともに、「台湾は実は危ないのだ」と広くアピールするためでもあります。

九月一日に曹氏は再び記者会見を開きました。その際に曹氏は自身の中華民国(台湾)の身分証を示し「以前、取得していたシンガポール国籍は捨てた。息子二人とともに台湾に戻り、いざ戦争があれば私自身も台湾のために戦死する」と宣言しました。

そして二つのプロジェクトに出資することを発表しました。


続きは、「正論」11月号をお読みください。ご購入はこちらをクリック


「正論」11月号 主な内容

【特集 日本に残された時間はない】

最高指揮官・安倍晋三は何を目指したのか 元陸上幕僚長 岩田清文 × 元総理秘書官・前防衛事務次官 島田和久

防衛力強化と「増額」混同するな 麗澤大学特別教授・元空将 織田邦男

継戦能力の要 兵站構築急げ ジャーナリスト 小笠原理恵

核の「持ち込ませず」平時からタブーなき議論を 自民党政調会長(当時)高市早苗 × 評論家 江崎道朗

「AUKUS(豪英米)」加盟の時期逃すな NNAオーストラリア代表取締役 西原哲也

偽りの「非戦」で日本は潰れ行く 明星大学名誉教授 山下善明

台湾防衛に私財投じた大富豪 チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫

【特集 小泉訪朝から20年】

親心届かぬ虚しき日々 拉致被害者、横田めぐみさんの母 横田早紀江

今明かす被害者奪還の真実 元内閣官房参与、元参院議員 中山恭子、モラロジー道徳教育財団教授 西岡力

【特集 空気に流されない】

私が野田元首相を評価しないワケ 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比

統一教会問題が暴いた戦後レジームの欺瞞性 弁護士 徳永信一

「旧統一教会批判」熱狂の危うさ 本誌編集部 安藤慶太

日本型「政教分離」を取り戻せ 早稲田大学非常勤講師 大場一央

令和の「宗門改」行き着く先は暗黒 皇學館大学教授 松浦光修

選挙の自由と警護警備の均衡を 公益財団法人公共政策調査会研究センター長 板橋功

要人暗殺阻止する制度作り議論せよ 夕刊フジ報道部記者 中村昌史

国連ウイグル報告書 これでも日本は動かないのか 日本ウイグル協会副会長 アフメット・レテプ

【特集 中国が付け入る隙】

外資招き入れても救われない夕張市 本誌編集部

沖縄県知事選で「尖閣」語らない異常 八重山日報編集主幹 仲新城誠

中国資本が支配する東京の火葬場 葬祭系ユーチューバー 佐藤信顕

原発新増設が必要なこれだけの理由 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志

南京事件はいかに創作されたか 国際歴史論戦研究所研究員 池田悠

中国戦争映画に宿る台湾侵攻の意図 映画評論家 瀬戸川宗太

底辺から地元の誇りへ 甲子園準優勝校の挑戦 下関国際高校校長 上田晃久

会員限定記事会員サービス詳細