スポーツ界の「ゆがみ」露呈 広告業界に過度な依存

東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件は、スポンサー集めを広告業界に依存してきたスポーツ界の「ゆがみ」を浮き彫りにした。専任代理店となった広告大手「電通」が過去最高のスポンサー料を集める中、電通OBの大会組織委員会元理事が契約交渉に介入。スポンサー企業などから元理事側に不透明な資金が渡り、東京地検特捜部が認定した賄賂額は計約1億4200万円に達した。チェック機能が働かず不正を招いた構図も透けて見える。

「主役」は電通

組織委発足から3カ月後の平成26年4月。スポンサー選定を担う「マーケティング専任代理店」に、電通が選ばれた。大会全体を取り仕切る組織委の「実動部隊」は、国や自治体、関係企業などからの出向職員。電通からも多数の社員が組織委に出向した。

国際オリンピック委員会(IOC)の意向も踏まえ、電通と組織委はスポンサー料やスポンサー企業が提供するサービス内容を確定。それまでの「1業種1社」から、IOCの承認などがあれば複数社と契約できるよう原則を崩した結果、国内のスポンサー収入は五輪史上最高の3761億円に達した。

「五輪審判服を提供する企業の場合、試合中に服が破れた際の補修人員を何人確保するかなど、細かい打ち合わせも全部やった。スポーツビジネスのノウハウがある電通だからできた」。組織委に出向した電通関係者はこう振り返る。

代理店のように仲介

電通が専任代理店になった2カ月後、組織委が当時定めていた理事の定員35人の最後に滑り込んだのが、電通元専務の高橋治之(はるゆき)容疑者(78)=受託収賄容疑で再逮捕=だった。

「ほとんどが名誉職」(元理事)とされていた組織委理事の中で、高橋容疑者はスポーツマーケティングを熟知し古巣の電通やIOCなどに人脈を持つ異色の存在。電通の「お目付け役」としての役割も期待されたが、スポンサー契約を目指す企業は、その威光を頼った。

その筆頭が、紳士服大手「AOKIホールディングス」と出版大手「KADOKAWA」。依頼を受けた高橋容疑者は、組織委や電通に働きかけるなど、代理店のような「仲介」を行った。

企業だけではなく、五輪参画を目指す電通以外の広告会社にとっても高橋容疑者は魅力的だった。電通を補佐し契約過程に参画する「販売協力代理店」になろうと、「大広」「ADKホールディングス」が高橋容疑者に接近。助力を受けて協力代理店となり、電通から報酬を得た。

その後、AOKI側は高橋容疑者が代表のコンサル会社「コモンズ」に、KADOKAWAと大広は高橋容疑者の電通時代の後輩である深見和政容疑者(73)の「コモンズ2」に、それぞれ資金を支出。特捜部はこれを「みなし公務員」である高橋容疑者の便宜への対価とみなした。

電通を筆頭とする代理店にスポンサー業務を「丸投げ」していた組織委は、高橋容疑者の動きを想定しきれていなかった。

非公開でも監視を

一方、広告業界には、補助金頼みだったスポーツ界に民間資金を呼び込み、競技力向上に寄与したという過去の「功績」もある。

「マーケティングは本来、補助金頼みだったスポーツ界が政治からの自律性を確保するためのものだった」。日本オリンピック委員会(JOC)事務局で長年、スポーツマーケティングを担った五輪アナリストの春日良一氏は話す。

マーケティング導入のきっかけは1980年のモスクワ五輪。米国に追随する政府から補助金減額をちらつかせられ、五輪をボイコットせざるを得なかった苦い経験から財政的な独立の必要性が叫ばれたためだ。

JOCはその後、民間資金導入で先行する米国に職員を派遣。マーケティング関連会社も立ち上げ、98年長野五輪で成果を上げたが、その後解散し、電通などへの依存が強まった。春日氏は今回の東京五輪について「組織委を作る段階でJOCの主導性が失われ、実務を知らない政財界の声に押されて電通丸投げになった」と分析する。

過度な「代理店依存」から、どう脱却すべきなのか。五輪の歴史に詳しい筑波大の真田久特命教授は「スポーツビジネスでは透明性確保が求められるが、企業秘密などもあり契約内容の公表は難しい」と指摘。その上で「非公開でも第三者機関が常に監視できる体制が必要だ」と話した。(吉原実、桑波田仰太、石原颯、荒船清太)

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