記者発

「西九州新幹線」出発の覚悟は 大阪経済部・井上浩平

開業を迎え、JR長崎駅(奥)を出発する西九州新幹線「かもめ」=9月23日
開業を迎え、JR長崎駅(奥)を出発する西九州新幹線「かもめ」=9月23日

「はしれ、ぜんぶ乗せて。」。9月23日に開業した西九州新幹線を紹介するJR九州のホームページには、新幹線「かもめ」とともに笑顔で駆け出す人たちの姿が描かれ、こんな言葉が躍っていた。出身地である九州の新たな鉄路の出発に水を差すつもりはないが、本当に〝全部〟を乗せて走る覚悟があるのかと疑念を持ってしまった。

約15年前、佐賀県鹿島市で取材活動をしていた。県内では当時、新幹線開業に伴い並行在来線となる区間の沿線自治体と、新幹線整備を推進する県との間で対立が続いていた。新幹線が開業すれば並行在来線は経営維持が難しくなるため、JRは同市内の区間を含む長崎線の一部を経営分離する方針を表明。市は将来の廃線や地域衰退の懸念から整備反対を貫いていた。

新幹線の着工条件の一つに、並行在来線の経営分離に関して沿線自治体からの同意を得ることがある。ところが平成19年末、JRと佐賀、長崎の両県は、JRが20年間、並行在来線区間を運行し、両県が線路を管理する内容で合意した。これをもって政府・与党は「経営分離にあたらない」として、沿線自治体の同意を得る必要はなくなったが、整備推進派と反対派の間に感情的なしこりを残した。

一方、今回開業したのは武雄温泉(佐賀県)―長崎間で、九州新幹線(博多―鹿児島中央)との接続に必要な新鳥栖(同県)―武雄温泉間は未着工だ。当初は武雄温泉までの在来線と、その先の新幹線の両方を車輪の幅を変えて走る新型車両を導入する計画だったが、開発失敗で断念。国は未着工区間をフル規格の新幹線で延伸する方針だが、佐賀県には約660億円の追加負担が生じる。開通しても博多―佐賀間の移動時間短縮は約15分にとどまる。かつて整備新幹線に同意していた佐賀県は「負担に見合う効果が見込めない」として整備に難色を示している。

今回、長崎県の担当者は「悲願の開業」と声を弾ませていたが、佐賀県側との温度差を感じる。地元では、わだかまりや失望、そして明確な根拠が示されないままの地域振興への期待感などが渦巻く。乗客以外の多くのものを乗せて走り出したかもめが将来、「見切り発車だった」といわれないよう願っている。

【プロフィル】井上浩平

平成26年入社。神戸総局を経て社会部で警察、大阪府市の行政を取材し、令和3年10月から経済部。大阪の財界や金融などを担当している。

会員限定記事会員サービス詳細