なんとも惜しいクルマをなくしました ホンダNSXタイプS試乗記

飾るためのスーパーカーではない

実際、筆者はこのタイプSの広報車に乗り込み、最初はさしたる感銘を受けなかった。

ボディ側のドアの取っ手のひき方にちょっととまどったけれど、ドア自体はフツウに開くタイプだし、サイドのシルも高くなっておらず、ミドシップ2シーターのわりに乗降性はすぐれている。奇をてらったところにはどこにもない。シフトのスイッチは基本的にホンダのほかのモデル、「ステップワゴン」なんかとも同じだし、フェラーリとかランボとかのイタリアン・スーパーカーで感じるようなドキドキ感とは無縁だ。

しかして、このドキドキ感のなさ。フツーの精神状態でドライブに臨めることがホンダNSXの初代から続く伝統であり、長所なのである。NSXというのは、飾るためのスーパーカーではなくて、走るため、乗るためのスーパーカーなのだ。

ただし、2代目NSXの場合、室内空間はタイトというべきでシート背後に電池とその制御系をひとまとめにしたIPUがあるため、カバンを置く場所は助手席にしかない。その分、サイズがコンパクトだから致し方がないともいえる。

タイプSの全長×全幅×全高は4535×1940×1215mmで、ホイールベースは2630mm。たとえば、コンパクトネスをうたうフェラーリ「296GTB」より、ホイールベースこそ30mm長いものの、ボディは30mm短くて、18mmナローで、28mm高い。

ダッシュボードの中央付近に設けられたスターターの丸いスイッチを押すと、一瞬、グオオンッとスポーツカーらしい咆哮が轟く。でも、それも一瞬のことで、電池にエネルギーがたっぷりあると、最初はEV走行する。

このとき、4つのモードを持つ「インテグレーテッド・ダイナミクス・システム」という名の統合制御システム、いわゆるドライブ・モードはデフォルトのスポーツが自動的に選ばれている。

スポーツは、市街地や高速を想定して設定されたモードで、アイドリング・ストップ、EV走行を含むハイブリッド走行をする。エネルギーのマネジメントは走りと燃費の両立にあり、街中では3km/リッター台だった燃費は、高速巡航を続けていると11km/リッター台にまで跳ね上がった。

前245/35ZR19、後305/30ZR20という前後異型のタイヤ・サイズはオリジナルと同じながら、タイプSは、ホンダの承認マーク付きのピレリ・Pゼロを履いている。旋回能力を引き上げるべく、ホイールによってトレッドを若干広げてもいる。

グリップ性能の高いタイヤを装着しながら、乗り心地はしなやかに硬い。ホンダでタイプRといえば、サーキット志向のバリカタ、タイプSといえばワインディング志向のしなやかな硬さを特徴としていたものだけれど、NSXタイプSもまたこの伝統にのっとっていると考えられる。

過剰にスーパー過ぎないスーパー・スポーツ

高速道路に上がってガバチョとアクセル・ペダルを踏み込む。

V6ツイン・ターボは5000〜6000rpmあたりまで豪快に低周波のサウンドを発しながら回転をあげ、巡航に移るとすぐさまおとなしくなる。9速DCTのトップはクルーズ用とされており、100km/h巡航は1700rpmに過ぎない。軽くアクセルを開ける程度だと、モーターのアシストで加速し、エンジン回転は2000rpm以下におさえられている。室内はおのずと静けさに包まれる。

会員限定記事会員サービス詳細