朝晴れエッセー

中身はなあに・9月30日

昭和50年5月、エリザベス女王とフィリップ殿下が来日された。紫のリラの帽子が青い空に映えて女王様はとても美しかった。宮中晩餐(ばんさん)会の様子、きらめく宝石のティアラに気品ある姿、旅先での気さくなやさしい人柄に日本全部が女王様を好きになったのではないでしょうか。

6日間の日程の中でオープンカーでのパレードがありました。どこから始まりどんなコースだったか忘れましたが、その日の夕方、信濃町駅近くのうどん屋さんへ行き「天ぷらうどん」2人前をお願いしました。アツアツの鍋を両手に持って道路に出ようとすると、先導のオートバイの後にオープンカーが現れました。

パレードを終えて次の目的地に向かっていたのでしょうか。道路のまわりには人影がなく、どうしようかと思った私は「ぺこり」と頭を下げました。目の前をゆっくりと車が進みました。お二人はニコニコと手を振り鍋を見て「中身はなあに」とおっしゃっているみたいでした。あっ、うどんが冷める…と気がつき、目の前の慶応大学病院へ急ぎました。

病室では先生(弁護士)と奥様がお待ちでした。入退院を繰り返して、このところ食欲がない先生がいつもより食べてくださったのです。エプロン姿で鍋を持ち、きっと目立ったろうね、と奥様は笑われました。お手伝いとして11年目、29歳のときでした。

女王様は在位70年の間、いくつもの王室の危機を乗り越えイギリスを守ってこられました。凜(りん)とした気品あるお姿に心からご冥福をお祈りします。合掌。


向山美代子(76) 大阪府和泉市

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