米、露の核兵器抑止に難題 具体策なし

ブリンケン米国務長官(ゲッティ=共同)
ブリンケン米国務長官(ゲッティ=共同)

【ワシントン=渡辺浩生】ブリンケン米国務長官は29日、ロシアによるウクライナ東部・南部4州の併合宣言に先立ち、「ウクライナの土地のさらなる争奪を覆い隠す無駄な試み」として併合は断じて認めないとする声明を発表した。バイデン政権は長期の支援戦略にかじを切ったが、露側は併合地域への攻撃に核兵器使用を辞さないと警告する。その際に軍事介入すべきか否か。これまで避けてきた命題が真剣に問われている。

声明でブリンケン氏は「同盟諸国とともにウクライナの主権・領土を守る戦いへの支援を継続する」とも強調。戦闘は長ければ数年継続するという見通しの下、28日には北大西洋条約機構(NATO)本部で、同盟諸国の兵器調達担当者による初会合が開かれた。

西側が供与した重火器、とりわけ米国が16基供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」は戦闘を劇的に変えた。会合では中長期的な兵器供給を可能にするため、各国の生産能力を増強する協力体制を協議した。旧ソ連製兵器が中心だったウクライナの防衛力をNATO標準にシフトする試みでもある。

NATO非加盟の同国はしかし、加盟国への攻撃を全加盟国の攻撃とみなすNATO条約第5条(集団防衛)の対象ではない。「併合地域」の防衛には本土防衛と同様、「核を含むいかなる兵器も使用できる」(メドベージェフ国家安全保障会議副議長)という露側の脅しは、この盲点をついた。ウクライナ軍がハイマースで「併合地域」の露軍に反撃すれば、露側が米国による露領土の攻撃とみなす危険すらある。

米政府は、核使用は「重大な結果を招く」(サリバン大統領補佐官)と警告を続けるが、具体的対処にはこれまで言及していない。

当局者は米紙に対し「戦略的曖昧さ」を強調するが、バイデン大統領は核大国間の戦争につながる介入を否定してきた。専門家の間では露軍への通常兵器による限定攻撃が取り沙汰されるが、「重大な結果」とは何かを明示しなければ、2月の侵攻阻止に失敗した二の舞となる恐れもある。

ウクライナには、旧ソ連から継承した核兵器を放棄する見返りに、米英露が安全保障を約束した1994年のブダペスト覚書が露の侵略でほごにされた経緯がある。

米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」のマイケル・ルービン上級研究員は、9月発表の論考で「西側はウクライナの核抑止体制の再構築を目標とすべきだ」と訴えた。

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