話の肖像画

アルピニスト・野口健<29> 負けられない自由と民主主義

(三尾郁恵撮影)
(三尾郁恵撮影)

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《日本という国家の在り方には強い関心がある。いま日本を取り巻く国際環境は厳しくなるばかり。周囲は「力」による現状変更をうかがう覇権主義、核開発を進める独裁者、国際ルール無視の反日国家…。わが国はどう対抗すべきなのか》


うーん、なかなか難しい問題ですね。たとえば中国は、50年後、100年後をイメージして戦略的に動いている。しかも「(民主的な)選挙なし」にできるのです。香港の民主化運動や、チベットやウイグルの少数民族への弾圧も容赦なく徹底的に行う。国際社会の非難なんて気にもかけない。同じことを日本の政権がやれば、たちまち内閣が吹っ飛ぶでしょう。

香港問題にせよ、今回のロシアによるウクライナ侵攻にしても「そこまではやらないだろう」という専門家の見方はことごとく外れました。彼らの論理にしてみれば、徹底的に潰しておくことこそが国(政権)を維持することなのでしょう。

こういう(専制的な)国々と日本は対抗してゆかねばなりません。資源も大きな国土も持たず、軍事力の行使にも制約があるわが国にとって非常に難しいテーマです。日本が生き残ってゆくためには、もっと「したたかさ」が必要でしょう。6年間選挙がない参議院で専門家を養成したり、対中国で諸外国と連携する動きをさらに加速させたり…知恵を絞らねば日本という国がなくなってしまう事態さえ招きかねません。


《日本は歴史上、外国勢力の侵略を受けた経験がほとんどない。そのため、領土を奪われたり、異国に統治されたり、というイメージも描きにくい》

先の大戦で日本は敗れましたが、統治者としてやってきたのはアメリカでした。もしソ連(当時)だったら状況は全く違っていたでしょうね。その意味では日本人は「占領される」という本当の意味が分かっていない気がします。

いま、ウクライナはロシアの侵攻に対して、一歩も引かずに踏ん張っている。日本人の専門家の中には「早く妥協した方がいい」という人がいますが、もし譲歩すれば、たちまち国土が蹂躙(じゅうりん)され、無くなってしまう…ウクライナはそのことがよく分かっているのでしょう。

これは単にウクライナとロシアとの戦いではなく、自由と民主主義と専制主義との戦いです。もしもこの戦いに負けたら中国も動くでしょうね。それが分かっているから、アメリカなど西側国家も懸命にウクライナを支援している。負けるわけにはいかないのです。

日本や日本人はもっとリアルにウクライナのことを考えるべきですよ。というのも、どうも最近の日本人はリアルに想像することに欠けている気がするからです。もしも日本が中国やロシアに占領されたら、ウクライナで起きていることを(東京の)渋谷に置き換えたらどうなるか…それをリアルに想像してみたらいいと思います。


《来年50歳になる。現在の日本人男性の平均寿命から見たら、残り時間は30年あまり》


「残り時間」のことはよく考えるようになりましたよ。後継者のことも考えます。自分が活動を終えたらすべて終わっちゃう、では困りますから。まぁ、来春大学生になる娘(絵子(えこ)さん)が「私が全部引き継ぐ」と言ってくれていますけど。

自分の残り時間・30年をフルに使ったとしてもたぶん、1人では大したことはできません。それをいかに「広げていくか」「つなげていくか」だと思うのです。僕が活動を終えるときは人知れず消えていきたいですね(苦笑)。後は(好きな)畑でもやって余生を過ごします。(聞き手 喜多由浩)

明日から鉄道開通150周年記念の特別連載「令和阿房列車で行こう」。

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