わざとバス停倒す理由は 京都では「おなじみ」

台風接近前に倒されたバス停の標柱(井上学教授提供)
台風接近前に倒されたバス停の標柱(井上学教授提供)

今月中旬の3連休(17~19日)に日本列島を直撃した台風14号。そのさなかに京都市中心部で横倒しになったバス停の標柱の写真がツイッターで話題となった。強風のためではなく、「意図的に」倒されたことを告げたツイートのリツイート(転載)数は5万を超え、《初めて知った》《地元ではよく見る光景》など反応はさまざま。京都市では事故防止のため約半世紀前から行われているが、広く認知されているわけではなく、あえて標柱を倒すという意外さが反響を呼んだようだ。

《これ、もっと知られるといいかも》

19日、この言葉とともに写真を投稿したのは龍谷大の井上学教授。写るのは「安全のためバス停を事前に倒しております」の張り紙と、京都市内の道路脇に横倒しになった標柱だ。「偶然通りかかり、以前聞いたバス事業者の苦労話を思い出した」などと井上教授は投稿の理由を説明する。

交通地理学が専門で、路線バスの利用促進やルートを検討する会議にも参加しており、数年前、バス事業者と台風時について話が及んだ。

強風による転倒防止のため、京都市では昭和49年ごろにはバス停の標柱を事前に倒すようになり、京阪バスや京都バスといった市内の民間事業者も同様の対応を取ってきた。ただ、限られた人員と時間で作業にあたる中で、ときには倒した標柱が市民の「善意」で再び起こされたり、苦情が寄せられたりすることも多いとの苦労話を耳にした。

台風14号が最接近するとされた19日、京都市中心部を歩いていた井上教授は意図的に横倒しになった標柱を目にし、当時の記憶がよみがえったという。

強風に備え、京都市交通局は18日夕から職員約20人が2人一組で、標柱が転倒する恐れのあるバス停約150カ所で作業した。該当するのは移動可能な「置石型」。標柱を支えるコンクリート部分だけでも重さは約140キロもあり、周囲の支障にならないような場所に、時刻表が上になるよう倒していった。

しかし、作業を終えた1時間後には元の状態に戻されていた標柱もあり、再び職員が倒し直したほか、「バス停が倒れている」と市民からの電話が約30件寄せられたという。

こうした行為は善意によるものだが、荒天の中で再び職員が作業を行う危険性や事故が起きる恐れが生じるため、市交通局担当者は「意味があって倒していることをぜひ認識してもらえれば」と話す。

人知れずに誰かが誰かの安全を守っている-。今回の予想外の反響の大きさに井上教授は「うれしく思う。台風が近づいたら物干しざおを下ろしたり、自転車を倒したりするように、バス停も倒すことをより多くの人に理解してほしい」と期待を込めた。

台風に備えて倒されたにもかかわらず、元に戻された京都市交通局のバス停(井上学教授のツイッターから、一部画像処理しています)
台風に備えて倒されたにもかかわらず、元に戻された京都市交通局のバス停(井上学教授のツイッターから、一部画像処理しています)



認知度は「西高東低」 台風への心構えに差

台風接近時にバス停の標柱をあらかじめ倒す作業は、各地でも行われているが、地域差もあるようだ。

台風14号が18日に上陸した鹿児島市は前日の17日から、風で倒れやすい場所にある約30カ所の市交通局のバス停標柱を倒した。福岡県の西鉄バスや、神戸市交通局でも事前に標柱を倒す作業が行われた。

主に風で倒される可能性がある標柱は、コンクリートの基礎に停留所名が書かれた標識の付いた置石型だが、標柱を地中に埋めた埋込式も増えている。

高知県のとさでん交通によると、かつては置石型で転倒の可能性がある標柱は事前に倒していたが、埋込式の増加で今回は倒すことはなかった。東京都交通局も埋込式が主流で、置石型は近くのガードレールなどに針金で固定した。

一方、「台風時にバス停の標柱を倒す習慣になじみがない」と語るのは、仙台市交通局の担当者。置石型は強風時に近くの植樹帯に杭(くい)を打ち、倒れないようひもで固定するなどの対応をとるという。

今回、京都市内のバス停についてツイートした井上学教授によると、東日本在住と思われる人の方が「知らなかった」とのコメントを多く寄せたことなどから、「台風接近時の勢力の違いなどにより、地域差があるのでは」と分析する。

(木下倫太朗)

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