鑑賞眼

矢沢永吉、50周年 6万人を圧倒したシャウト

50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)
50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)

矢沢永吉、この夜、72歳。驚くべき強靭(きょうじん)な歌声で、6万人の観衆を圧倒した。まさにロック。ここにロックありの夜だった。

昭和47年にロックバンド、キャロルを率いてデビュー。それから50年、ロックし、ロールし続けたことを記念したコンサートを東京、福岡、大阪で開催。その初日を見た。

会場は、東京都新宿区の国立競技場。東京五輪・パラリンピックの主会場として新装なった後、有観客で行われた初のコンサートでもあった。大きく開いた屋根が空を切り取る。その空が、まだ明るいうちからファンが続々と駆けつけた。

「昔と比べると、皆さん、品が良くなったね」。会場近くのラーメン店の主人が関係者に言ったという。白いスーツに真っ赤なタオルを巻いた往年のファンもいれば、子供連れまで、いまやその年齢層は幅広い。

タオルは矢沢のコンサートの名物。観衆は、特定の曲に合わせて手持ちのタオルを頭上にほうり投げて盛り上がる。名物「タオル投げ」だ。新型コロナウイルス感染対策で禁止されていたが、この夜から復活した。

ただ、「声出し禁止、声かけ禁止、拍手でサイコーのコンサートにしよう。ヨロシク!」。大型ビジョンには、感染対策を徹底しようと呼びかける映像が何度も流れた。

歓声が上がるようになった一部来日公演と違い、矢沢のファンは、手拍子とウエーブで開演前から雰囲気を盛り上げた。「皆さんにとっては、夏祭りなんですよ」と関係者は言う。

「間もなく開演です」のアナウンスが流れると、大音響とともにステージに大きな火柱が噴き上がった。一気に興奮が高まる中、ビジョンに矢沢の姿が映る。会場内の通路をステージに向かって歩いている。ドーンと火柱。矢沢が進む。また、ドーンと火柱。さらにステージに近づく。

またまた火柱。「オーラーイ!」の掛け声とともに、ついにステージに矢沢が現れ、「苦い雨」でステージは幕を開けた。

わき起こる拍手、拍手、また拍手。6万人の観衆が全力で手をたたく。その音量のすさまじさ。バンドの演奏をかき消した。驚いた。

だが、矢沢が押し返す。上着を脱ぎ、両手を広げて叫ぶ。「ロケンロール!」。白いマイクスタンドをななめに構えて歌い出す。マイクアクションを決める。矢沢の他は、英国のロッド・スチュワートと亡くなった西城秀樹にしかできないかっこよさだ。

雨上がりでやや蒸し暑い。「夏の野外ライブは年寄りにはきついぜ」と苦笑いしたが、「でも、神様、ありがとう。こんなおやじに6万人の前でやらせてくれて!」。歌うほどに、その声は力を増す。観客のほうは拍手に疲れても、矢沢の歌は、どんどんボルテージを上げる。気がつけば、矢沢のシャウトが6万人の観衆を完全に制圧した。

デビュー前のビートルズに似てシンプルで荒々しいパワーを放ったキャロルだが、現在の矢沢の音楽は1980年代の洋楽ロックサウンドを引き継いでいるといっていい。

80年代にロックは商業化し、原初的な熱量や精神性を失ったと批判されたが、音楽的には成熟した。ハードロックの激しいギター演奏もAOR(大人向けロック)のメローなサックスの音色もどんよくに取り込み、重厚でしゃれたサウンドにたどり着いた。

矢沢のバンドは、その頃のサウンドを奏でる。この日は、歌手のMISIA(ミーシャ)がゲストで登場。矢沢と「HEY、YOU」をデュエット。翌日にはハードなロックの2人組のB'z(ビーズ)が出たが、矢沢のロックサウンドは両者を取り込めるほど間口が広いということだ。

50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉とゲストのMISIA(左)=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)
50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉とゲストのMISIA(左)=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)

一方で、現代流行の音楽には、かつてロックと呼ばれた音楽の片鱗(へんりん)も見えない。軽音楽の流行は常に変化し、それに伴って主流となるビートも変質する。

いまや純然たるロックは、元ビートルズのポール・マッカートニー(80)やボブ・ディラン(81)、あるいはいまだ現存するローリング・ストーンズら英米における「創始者」たちによって現代に伝えられる伝統芸能となった。そして、日本では矢沢が、代表的な伝達者ということだ。

伝達者はステージを駆け回り、そして何度も叫んだ。「ロケンロール!」。2度のアンコールに応え、締めくくりの「止まらないHa~Ha」で、いよいよタオル投げ。「ロックンロール・ナイト、ハー、ハー」という矢沢の歌に合わせて、6万人分のタオルがロックのビートに合わせて何度も宙に舞った。

50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)
50周年を記念して国立競技場で公演した矢沢永吉=東京都新宿区(提供、HIRO KIMURA撮影)

「50周年の今年には新型コロナウイルス禍もおさまっているだろうと考えていたけど、全然、終わりゃあしない。しぶといやつだ。皆さん、まだ、マスク着用でお願いします。だけど、きっと僕らは勝ちますよ」と語った矢沢。

73歳の誕生日を迎えた9月14日、11月から11カ所17公演のツアーを始めると発表した。その最終日の12月20日の東京・日本武道館公演は、同所での公演通算150回目という前人未到の記録もかかっている。(石井健) 

 矢沢永吉「EIKICHI YAZAWA 50th ANNIVERSARY TOUR『MY WAY』」。8月27日、東京・国立競技場。2時間20分。


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