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ご都合主義で終わらせぬには 論説副委員長・長谷川秀行

8日、米西部ロサンゼルスで、IPEFの閣僚級会合の集合写真に納まる西村康稔経済産業相(左から2人目)ら各国の閣僚 (坂本一之撮影)
8日、米西部ロサンゼルスで、IPEFの閣僚級会合の集合写真に納まる西村康稔経済産業相(左から2人目)ら各国の閣僚 (坂本一之撮影)

できっこないと半ば高をくくっていたので、うまくいったのは驚きだった。今さらながらそう思うのは、米国のトランプ前政権が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱した後、日本が残る11カ国を糾合し、速やかにTPPを発効させたことである。

凶弾に倒れ、国葬で送られる安倍晋三元首相による経済外交の画期的な成果だった。米国に翻弄される各国をまとめるため日本が中心的な役割を担う。これは過去の政権にはなかったことだ。

先進7カ国(G7)などの場でもみられた安倍外交の主体性を岸田文雄政権はどう受け継ぐか。先に交渉開始が宣言された米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、これをみる格好の場ともなる。

バイデン米大統領が提唱し計14カ国が参加するIPEFには、この地域での中国の覇権主義的な動きに対抗する狙いがある。日本にとっても参加の意義は大きい。

気がかりなのは、米国のご都合主義が散見されることだ。アジアへの経済的関与を再び強めるのはいい。だが、対米輸出の拡大に資すると途上国が期待する関税撤廃を、端(はな)から交渉対象に含めなかったのは、自国産業保護を何よりも優先したトランプ政権時の姿勢と本質的には変わらない。

IPEF各国とのサプライチェーン(供給網)強化を目指す米国自らが、米国以外の企業に不利な電気自動車(EV)の国内支援策を講じるのも整合性に欠ける。世界貿易機関(WTO)ルールに反する疑いもあるから、日本が懸念を示したのは当然である。

日米間ではトランプ前政権が取り合わなかった米自動車関税の撤廃交渉も放置されたままだ。同政権が課した鉄鋼製品などへの追加関税も完全撤廃されていない。これらを脇に置いてIPEF交渉を行うというのがバイデン流だ。

中間選挙を控えた国内事情があるにしても、米国のご都合主義が過ぎればIPEFの連携は深化しまい。対中関係を重視する参加国もあるから、なおさらである。

日本は米国と他の参加国の橋渡し役になるべきだと、よくいわれる。だが、それだけで十分か。むしろ、米国主導ではなく日本主導の枠組みだと評されるくらいの覚悟で交渉を牽引(けんいん)すべきだ。米国の身勝手で漂流の危機に陥ったTPPのような事態を二度と招かぬためにも万全の手を尽くしたい。

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