安倍晋三元首相の国葬(国葬儀)が27日に実施されるのを前に、東京大などの学生有志らが音声を自動生成できるAI(人工知能)を活用したシステムで、安倍氏の〝肉声〟を再現し、話題を集めている。「故安倍元総理追悼AIプロジェクト」と題したホームページ(https://aiabeshinzo.com/)などで動画を公開している。
「有権者のみなさま、お久しぶりです。元内閣総理大臣の安倍晋三です」
動画は生前の安倍氏の写真をバックに、こう語り掛けて始まる。
「私を応援してくださった方々を勇気づけたいと考えて、東京大学人工知能研究会が総力を挙げて私の声を再現してくれました」
イントネーションの一部に不自然さは残るが、生前の演説を彷彿(ほうふつ)とさせる。
× × ×
システムは、現役東大生をはじめとした大学生らで組織した「東京大学AI研究会」が開発した。生前の安倍氏の国会演説などを学習させ、イントネーションやアクセント、間合いを再現する音声を自動生成する。プロジェクトには、東大生のほか、早稲田大や京都大の学生ら43人が参加する。
代表の男性によると、同会は令和3年5月、高校の同級生を中心に組織され、音声合成システムの研究を行っていた。今回のシステムは、音声合成システムに関する最先端の論文をもとに、研究会メンバーが独自開発したという。
中心メンバーの男性は産経新聞の取材に「当初は仲間内で研究を進めていた。そんな中、7月に安倍氏が銃撃され死亡し、何かこの技術を活用し、追悼の気持ちを表現できないかと考えた」と語る。
なぜ安倍氏だったのか。男性は「政治的な関心が生じて以降、首相といえば、安倍氏1人だった」とした上で「リーダーとして長年、日本のかじ取りを担っていた安倍氏への親しみは大きい」と理由を語る。男性だけでなく、10~20代が中心の研究会メンバーも同じような思いを抱いていたという。
サイトでは「二度とあの、優しくも、力強さを秘めた声を聴くことはできないという残酷な現実は、安倍元総理のご遺族や、同じ志を持たれ、ともに尽力されてこられた方々、そして、私たち含め安倍元総理を慕っていた国民に大きな喪失感をもたらしました」と強調する。
研究会では、動画の製作のほか、自民党の国会議員らにもプロジェクトの内容を伝え協力を求めた。そのかいがあって、公開された動画はインターネット上で拡散され、複数の党所属国会議員のほか、安倍氏の実弟、岸信夫首相補佐官も自身のSNSアカウントで紹介した。
研究会のサイトでは、こう呼びかける。
「遺族のみなさま、安倍元総理と親交のあったみなさま、そして深い悲しみに沈む日本国民のみなさまにとって、少しでも慰めとなりますこと、そしてそのことがなによりも、安倍元総理の追悼となりますことを固く信じ、祈っております」