イランで反政府デモ拡大 女性不審死で怒りが噴出

カナダ・オタワでイランの抗議デモに連帯の意思を示す人々(Justin Tang/The Canadian Press・AP=共同)
カナダ・オタワでイランの抗議デモに連帯の意思を示す人々(Justin Tang/The Canadian Press・AP=共同)

【カイロ=佐藤貴生】イランで女性が髪を覆うスカーフを適切に着用していないとして警察に拘束され、不審死したことに抗議するデモが同国全土に拡大している。蓄積された若者たちの怒りが噴出した形で、矛先は最高指導者ハメネイ師など政府に向かっている。保守強硬派のライシ大統領は武力鎮圧も辞さない構えを示唆し、事態は緊張の度を増している。

死亡したのは西部クルディスタン州出身のマフサ・アミニさん(22)。首都テヘラン滞在中の13日、スカーフをきちんとかぶっていないとして風紀を取り締まる警察に拘束され、16日に死亡した。

アミニさんの父親が「娘に健康上の問題はなく、死の責任は警察にある」と主張して暴行疑惑が浮上し、大規模デモに発展した。イスラム教が国教のイランでは、聖典コーランに基づき女性は頭部をすべてスカーフで覆うよう義務付けられている。

17日に始まった反政府デモは全国約50カ所に飛び火し、国営テレビはデモ隊と治安部隊の衝突で少なくとも41人が死亡したと伝えた。1200人が拘束されたとの報道もある。

アミニさんは少数民族のクルド人で、26日にはシリア北部のクルド人居住地域で数百人の女性が抗議デモを行った。デモはイラク北部のクルド人自治区でも起きており、イランの国内問題がクルド人の民族意識を刺激して事態の拡大を招いた形だ。

交流サイト(SNS)に投稿された動画では、デモには男性も加わってハメネイ師の看板を引き裂いたり、「独裁者に死を」と叫んで行進したりしている。

テヘランの32歳の男性は産経新聞のSNSを通じた取材に、「アミニさんの死は悲しむべきことだが、引き金に過ぎない」とし、デモは長期化すると予測した。背景には国民を監視下に置いて自由を侵害し、経済低迷が一向に改善しないことに対する政府への怒りがある。

男性との交信は23日を最後にほぼ途切れた。デモの動画投稿を封じるため、政府がインターネットへのアクセスを遮断したからだ。

バイデン米政権は事態を受け、科している制裁を一部緩和してイラン国内でネットが利用しやすくなる措置を取った。米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)も、自身の率いる宇宙企業スペースXが手掛ける高速ネット通信サービス「スターリンク」をイランで使えるようにする意向を表明。ネットをめぐる国際的な攻防が激化している。

イランでは2019年にもガソリン値上げを機に抗議デモが全国に広がり、政府はネットを遮断してデモ隊を狙撃して制圧したとされる。当時の死者を1500人と推計するロイター通信は、今回のデモはそれ以降で最大規模だと伝えた。

ハメネイ師の忠実な側近であるライシ師は22日に記者会見し、アミニさんの死因究明のため調査を命じたと強調した。一方で「イランには言論の自由はあるが、秩序を乱す行為は受け入れられない」と述べた。武力弾圧も辞さない意思を示したとみられる。

治安部隊がデモ隊に実弾を発射しているとの断片情報が出始めており、事態は予断を許さない危険水域に入った。

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