岐路に立つ「交通公園」 事故減少、死者の高齢化‥ 時代に合わせたリニューアル続々

大阪府富田林市の「ちびっこ交通公園」。園内に道路や信号を作り、交通ルールを学ぶ施設となっている
大阪府富田林市の「ちびっこ交通公園」。園内に道路や信号を作り、交通ルールを学ぶ施設となっている

秋の交通安全週間(30日まで)で、各地で交通安全の啓発イベントが活発に行われている。交通安全を学ぶ施設「交通公園」をご存じだろうか。道路や信号など実際の交通環境に近い設備を備え、主に子供向けに交通ルールを学んでもらおうという公園だ。交通事故死者が急増し、社会問題化した昭和30年代から各地で自治体が整備を進めた。近年は老朽化や交通事故の減少、少子高齢化などで転機を迎えつつあり、新たな形態を目指す試みも始まっている。

昭和レトロ

江戸時代の趣を伝える酒蔵や土蔵が立ち並び、大阪府内で唯一の国の重要伝統的建造物群保存地区になっている富田林市の寺内町地区。そんな風情ある地域の一角にあるのが「ちびっこ交通公園」だ。

滑り台やブランコなどの遊具もあるが、園内には幅3メートルほどで片側1車線に区切った道路と交差点。高さ約2メートルの信号機は定期的に赤や青に点灯する。

「珍しいのか、若い人が来て映像や写真を撮ったりしているよ」と公園の近隣でカメラ店を営む横山敏雄さん(61)。「この公園のおかげでいろんな人との出会いのきっかけになった」と笑う。

市によると、同公園は昭和45年、法務局の出張所跡地に整備。老朽化のため平成4年に全面改修した。その後は日常的なメンテナンスを行っているというが、どこか昭和レトロな雰囲気が残る。

改修前の「ちびっこ交通公園」。大阪市電の車両なども置かれていた(パナソニックホールディングス提供)
改修前の「ちびっこ交通公園」。大阪市電の車両なども置かれていた(パナソニックホールディングス提供)

交通公園の名が付く公園は、全国各地に整備されている。誕生した背景には「交通戦争」があった。

犠牲者急増

昭和30年代、高度経済成長により自動車の普及が進むとともに、交通事故の死者数が急増した。25年に約4200人だったが、34年には初めて1万人を超える。45年には過去最多の1万6765人となり、大きな社会問題となった。犠牲者の多さから、後に「第1次交通戦争」と呼ばれた。

特に子供たちの犠牲が目立ち、政府も対策を急いだ。当時の建設省は、実際の道路に横断歩道や歩道橋などの整備を重点的に進めた。さらに、子供の遊び場を交通事故の危険がある道路から公園に移行させようとの思惑から公園整備を計画した建設省と、交通ルールを教える場を求めていた当時の文部省の立場が、交通公園誕生の背景にあったとされる。

交通公園の調査をした桜美林大の金子淳教授は「子供の命を守るために建設省と文部省が協調していたかは分からないが、結果的に両省の考えが合わさるようなものとして『交通公園』が生まれた」と話す。

一般的な交通公園では、自転車や三輪車、ゴーカートなどを置いているのも、子供向けの交通安全教育を主眼としているためだ。37年ごろには建設省が交通公園のモデルの基準を示し整備を呼びかけると、全国の自治体で機運が高まっていった。

また、民間も整備を後押しした。パナソニックホールディングス(HD)などによると、松下電器産業(当時)は昭和43年、創業50年記念事業の一環として、日本に返還前だった沖縄を含めた全国の都道府県と政令市に、子供たちの交通安全対策費として総額50億円を寄贈。富田林市の交通公園の整備費用にもあてられたとみられるという。

住民と模索

昭和30年代後半から40年代にかけて整備が活発化した交通公園は、交通安全教育の拠点として活用されてきた。ただ、近年は社会状況が変化している。

交通事故死者数は2度目のピークとなる平成2年の1万1227人以降、減少傾向が続き、令和3年は2636人と過去最少に。一方、65歳以上の高齢者の割合は増加傾向にあり、平成23年に49・2%と事故死者の約半数を占めた。令和3年には57・7%まで上昇しており、高齢者向けの交通安全教育の充実が求められている。また、設備の老朽化も目立ちリニューアルなども必要になっている。

こうした変化から、新たな形での交通公園を整備する動きもある。京都市北区の大宮交通公園は、昭和44年に開園したが、施設の老朽化などから再整備を計画。民間から整備計画案を募り、管理運営を委託する形で、令和3年度にリニューアルオープンした。

子供向けの自転車教室の開催など交通安全を学ぶ場としての機能を残しつつ、飲食店や自転車販売店も開業し、地域の交流拠点も目指した。また、隣接地に消防署が移転したこともあり、防災トイレや災害時に「かまど」として利用できるベンチを置き、防災拠点としても活用できるようにするなど、公園の機能を向上させたという。

また、奈良県広陵町で昭和55年に整備された交通公園を活用してもらう民間の事業者を9月末まで募集している。同施設では、新型コロナウイルスの影響もあり、近年では交通安全教室も開かれていないという。同町は「民間事業者のアイデアも参考に、新たな交通公園の姿を模索していきたい」としている。

今後の交通公園について、金子教授は「交通事故死者数が大きな社会問題だった時期は行政が担うことが当然だったが、社会が変化していく中で、どこが担うのか改めて地域住民とともに考えていくことが必要になる」と指摘。そのうえで「子供の交通事故を防ぐだけでなく、高齢者の交通事故死者の割合が高まる中で、今後は交通公園という施設が適切なのか、その他の方法がいいのか、考えなければいけない」と話している。(小泉一敏)



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