昨年夏の東京五輪開会式の入場行進で、ゲームファンにはおなじみのファンファーレが鳴り響いた。人気ゲーム「ドラゴンクエスト」のテーマ曲だ。
小学生のとき、ドラクエをカセットテープでずっと聴いていたという大阪市城東区の作曲家、長谷川憲人さん(46)は「楽曲を手がけたすぎやまこういちさんが今でも好き。オリンピックの入場行進曲になるなんてすごいですね」と声を弾ませた。
もともと音楽好きだったが、子供のころの夢は野球選手。高校時代にケガで諦め、関西学院大学に進学後、そのままサラリーマンになるつもりだったが…。
「音楽の勉強もしていたんですけど、たまたま出場したバンド大会で優勝してしまい、それが大学4年生の卒業間際。就職も決まっていたのでだいぶ迷いました」と振り返る。
いったん就職したものの音楽の道を忘れられず、「もう一度勉強し直そう」と平成12年4月、「大阪スクールオブミュージック専門学校(OSM)」(大阪市西区)の音楽プロデュース科アレンジ&コンポーザーコース(現・カレッジ音楽科作曲&アレンジャーコース)に入学した。
音楽理論をはじめ、基礎から楽曲、録音、編集、ミックスまで音楽制作全般をじっくり学んだ。「音楽漬けになれるところを探していた。授業もさることながら、業界で仕事をされているプロの周防義和先生と後藤次利先生に出会えたことが大きい」と話す。
印象的だったのは、1年生のときの周防氏の特別ゼミ。映画音楽の課題制作で、自分なりによくできたと思った作品を聴いてもらうと、「これはそれっぽいけど、だめだね」とみんなの前で酷評された。ショックで2日間食事ができないほど落ち込んだ。とにかく悔しくて、それから必死に勉強したという。
半年後、もう一度聴いてもらう機会があり、今度はめちゃくちゃ褒められた。「あのときは伸びそうだったからわざとそう言ったんだよ」と周防氏の言葉。後藤氏にも、作曲の上で躍動感や人の心をつかむ大切さなどを教わったという。
15年3月に卒業し、ゲームソフトウェアメーカーの「カプコン」(大阪市中央区)に入社。ゲーム音楽を中心とした作曲を手がけ、初めて関わった作品が「バイオハザードアウトブレイク」。最後に流れてくるスタッフロールで自分の名前を見つけたとき、涙が出るほどうれしかった。
その後、「デビルメイクライ3、4」のサウンドを制作し、「エルシャダイ」「ロックマン」など有名タイトルを担当。19年に退社後、フリーランスを経て令和2年に事務所「sound18(サウンドエイティーン)」を設立し、今年からOSM講師も務めている。
曲作りには生みの苦しみがつきものだが、仕事に対する考え方は「苦しみに勝てないと仕事にならないと思う。あとはプレッシャーを楽しむことかな」ときっぱり。「オリンピックのオープニングを飾ったドラゴンクエストのように、誰が聴いてもわかる曲を作りたい」と口元をほころばせた。
作曲家になるには
必須資格はないが、高度な音楽知識が必要。大学や短大、専門学校などで音楽制作に必要なスキルを身につけ、音楽センスを向上させたい。音楽系事務所や芸能プロダクションに就職したり、フリーランスとして活動したりするほか、オーディションに参加する方法もある。