迫りくる南海トラフ巨大地震 都市構造の変化で読めぬ被害

関西でも大きな被害が予想される南海トラフ地震。地震研究者は2030年代に発生する可能性が高いとしている。同一の震源域では約80年前に昭和東南海、南海地震が起きている。ただ、戦中、戦後の混乱期で記録が十分でないほか、当時とは都市構造が変化し被害の実像が見えにくい。「防災の日」にちなみ、防災訓練などを通じて「備え」への啓発が進む9月。昭和の地震の教訓を考えたい。

震源域は数百㌔

南海トラフ地震は平成23年の東日本大震災と同様、太平洋から日本列島の下に潜り込むプレート(岩盤)と日本列島を形成するプレートが接する境界面で発生。大きな揺れが1分以上続き、大津波を起こすとされる。

こうした「海溝型地震」の震源域(震源から破壊が広がる範囲)は日本列島と並行する太平洋側の海底に広がり、長さは数百キロに及ぶ。西日本沖で起こる南海トラフ地震の震源域は東日本大震災のような東日本沖の地震に比べ、震源域が陸地に近いため、揺れがより強く、津波の到達時間が短いという特徴がある。

静岡から九州に至る南海トラフ地震の震源域は駿河湾沖~遠州灘、熊野灘、四国沖~日向灘のエリアに分けられる。これらの震源域はこれまで、ほぼ同時か、数十時間差、数年差で連動している。

昭和19年に発生した東南海地震の震源域は、三重沖から東方の愛知方面に拡大。2年後の南海地震の震源域は、紀伊半島沖から西方の四国沖へと広がった。両地震の被害エリアが重複する大阪や和歌山、兵庫など7府県では2度の揺れ、津波に襲われる可能性に留意する必要がある。

日本海側も建物倒壊

震源域が四国沖だった21年の昭和南海地震では、岡山や山陰など中四国でも揺れによる被害が出た。岡山県沿岸部や島根半島、鳥取・弓ケ浜半島など軟弱地盤で死者を伴う建物倒壊があり、これらの場所は江戸時代以前の南海地震でも繰り返し被害を受けている。

軟弱地盤での被害は大阪、兵庫沿岸部もあった。これらの都市部では近年、海溝型地震に注意が必要な高層ビルが増えている。また、昭和南海地震で三重、和歌山、高知沿岸部では津波に加え、強い揺れによる建物倒壊と火災による被害があった。津波からの避難対策と同時に液状化対策、家具固定・耐震化など、各地の被害の特徴を踏まえた取り組みが必要だ。(編集委員 北村理)

耐震化 大規模火災防止へ対策見直しを

一級建築士 樫原健一氏

近年、高齢化世帯が増え、新型コロナウイルスなど感染症への懸念から、公的避難所を避け在宅避難を選択する傾向が出ている。自宅の耐震化への取り組みが求められる。特に木造住宅が密集している大阪では、大規模火災を防ぐためにも耐震化は欠かせない。

耐震化の方法として、建物の変形のポイントとなる建材と建材の接合部分「仕口」を補強する粘弾性(樹脂製)の「仕口ダンパー」や「耐震リング」、生存空間の確保の方法として航空機や船、車の基本構造「モノコック構造」を利用した「耐震シェルター」など新しい部材も開発された。これらは大規模改修工事は必要なく、いずれも既存の建物に設置が可能だ。

高層ビル、マンションの場合は免震技術も普及している。これらの技術は「在宅避難」を選択する場合に検討に値するだろう。

備蓄 日ごろから心がけを

奥田和子・甲南女子大名誉教授

災害時の衛生管理・感染症対策で注意すべき点は「断水」だ。このため長期保存の飲料水、消毒液など水が不要の衛生用品、肺炎防止に効果がある口腔(こうくう)ケア用品の備蓄のほか、基礎疾患をコントロールする薬やお薬手帳も日頃からチェックしておきたい。

コロナ下の巣ごもり生活の定着で栄養バランスのいい最近の災害食の人気が高まっている。

日本災害食学会が調査したところ、主食系=レトルト米飯・おかゆ、アルファ化米・おかゆ、切り餅、パン、麺類▽魚・肉系=さば・いわし・赤魚加工品、おでん、鶏・牛の煮込み、豚汁▽野菜系=ジュース、スープ・シチュー、煮物▽おやつ系=米粉クッキーなど―で、種類の多様化と健康志向が顕著になった。これらの商品はインターネット通販でも手に入るので、コロナ対策も兼ねて関心を高めてほしい。

災害時用トイレ 準備は健康管理の基本

足立寛一・日本トイレ協会運営委員

災害時の健康管理は「水分の補給」と「排泄(はいせつ)環境の確保」が基本といっていい。

静脈にできた血栓が肺などの血管に流れて詰まる「エコノミークラス症候群」は、トイレ不足で水分を控えていたことも影響しているとされる。また、感染症対策の観点からも、共同トイレでなく個人で使用できる災害時用トイレの備蓄は必要だ。

一方、災害時用トイレへの関心は高いとはいえない。一般社団法人「日本トイレ協会」の災害・仮設トイレ研究会が、首都直下地震と南海トラフ地震が想定される10都府県の千人(20歳以上)にアンケートしたところ「水」の備蓄率は6割、「非常食」は5割弱だったが「災害時用トイレ」の備蓄率は2割弱だった。飲食と排泄は一体のものであり、災害時用トイレに関心を高めてほしい。

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