聞きたい。

笹公人さん 『終楽章』 念力歌人、現実の介護詠む

『終楽章』
『終楽章』

ドラマ化された第1歌集『念力家族』をはじめ、妄想を詠む「念力短歌」で知られる歌人が、現実を題材にした。第5歌集となる本書の刊行は、5月に亡くした父の介護がきっかけだ。

「僕の歌はSF的だったりオカルト的だったりするので、ファンタジーのように読まれていた。今回はノンフィクション」

超能力のある家族という設定の『念力家族』は、物語性が強い。受験勉強で忙しかったとき、いつか小説か映画にしたいアイデアを短歌で残していたら、そのまま評価された。

歌人の笹公人さん(提供写真、林晋介撮影)
歌人の笹公人さん(提供写真、林晋介撮影)

一方、本書に収録した「介護短歌」は〝あるある〟だ。

《朝六時の母の電話に覚悟して出れば「来るときタッパー返して」》

題材は、父が危篤に陥った翌朝の出来事。「これはもう死んだな、朝6時なんて訃報だと。ずっこけた」

実家の父は昨年、脳腫瘍で半身麻痺(まひ)に。性格が合わない父との相克にユーモアとペーソスが交じる歌は、レントゲン写真の脳腫瘍を「カモメの玉子」に例えるなど「不謹慎と思われるような言葉」が独創的だ。

《居間に座す父に「どなた?」と問われれば脳内に壺の割れる音する》

歌に詠んだ壺は今年、政治家と宗教の関係が問われる中で霊感商法を象徴する言葉に。「まさか、こんなことに。自分にとっても日本にとっても印象的なワードになった」。予言めいた感想が念力歌人らしい。

40代で親しい人を相次いで亡くし、霊の話も昔ほど怖くない。「どこでチェンジするか」が悩みどころだった。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻と、危機感は現実の方がある。

「戦時中は人の命の方が大事になる。オカルト的な歌に迫力がなくなるときにチェンジできた」。今後は「現実面が妄想面と合体したような、夢か現(うつつ)かみたいな境地」を目指す。(短歌研究社・2200円)

寺田理恵


【プロフィル】笹公人

ささ・きみひと 歌人。昭和50年、東京都生まれ。平成15年に出した第1歌集『念力家族』が好評を博し、27、28年にNHK・Eテレでドラマ化。現在は「NHK短歌」選者も。今月、共編著『アイドル歌会公式歌集Ⅰ』が刊行された。

会員限定記事会員サービス詳細